■多汗症治療ガイド>□治療編 ● 外用制汗剤
簡便な方法で、かつ効果の有無も比較的わかりやすいのが、アルミニウム配合の外用制汗剤を用いた治療です。薬剤を皮膚に直接塗って、その成分の作用によって汗を止めます。
テレビCMでよく見かけるようなものは、サラサラ感を出したり消臭・芳香効果が中心で、多汗症の人の汗を抑えるほどの作用はありません。一方、アルミニウムには制汗作用があり、アルミニウム製剤は多汗症の人にも有効です。
なお、この治療は一種の対症療法といえるもので、物理的に汗を止めるだけであり、多汗症自体を治すものではありません。使用を中止すれば、また汗が出てくるようになります。従って、継続的な使用が必要です。
−アルミニウム製剤のご使用についての注意−
アルミニウムは人体に有害な物質であり、過剰に取り込まれ、脳に蓄積されるとアルミニウム脳症(口ごもるようになったり、異常行動、突然の発作、吐き気やめまい、意識が乱れたりする)、また、骨に蓄積されるとアルミニウム骨症(骨がやわらかくなり、関節痛や骨折をくりかえす)を引き起こす場合があることがわかっています(※)。
しかし、制汗剤として外用した場合の影響について、はっきりとした結論は出ていません( 私個人の見解としては、問題ないと思っています)。
ご心配な方や異物を皮膚に塗ることに抵抗のある方は使用なさらないほうがよいでしょう。
手のひら・足の裏・わきの下の多汗症治療にはイオントフォレーシス機器がありますので、そちらを検討してみるのもよいでしょう。特に、手のひら・足の裏についてはアルミニウム製剤の有効度は高くありませんので、はじめからイオントフォレーシス機器による治療を試してもよいでしょう。
いずれにせよ、アルミニウム製剤をご使用になる場合は必要最小限にするよう心懸けて下さい。※【参考】
・vol_23 アルミニウムをふくむ成分(三幸医療カレッジ)
・透析脳症とアルツハイマー病の関係は?((一社)日本アルミニウム協会内「アルミニウムと健康」連絡協議会)
・制汗剤に含まれる塩化アルミニウムについて…−Yahoo!知恵袋◆ アルミニウムを含む制汗剤について
(注)当ページにおいて、テノール液のアルミニウム濃度は3.9%、オドレミンのアルミニウム濃度は13%と記述していますが、メーカーの商品ページにアルミニウム濃度についての記載はなく、現物にも記載はないようです。記述時(2000年頃)の情報源はすでに忘れており、今となっては不明です。従いまして、2品のアルミニウム濃度について確言はできません。ちなみに、オドレミストは商品ページに塩化アルミニウム13%配合と明記されています。○ どのようなものがありますか?
アルミニウムを含む制汗剤には、市販品(医薬部外品)としてテノール液、オドレミン、オドレミストなどがあります。また、病院で処方される塩化アルミニウム水溶液があります。
テノール液、オドレミン、オドレミストなども塩化アルミニウム水溶液の一種ですが、ここでは便宜上、区別することにします。○ 効果について
アルミニウムを含む制汗剤の効果について、おおまかに言いますと、次のようになります。
- わきの下には、ほとんどの人に有効です。
- 全身多汗・代償性発汗対策としても利用できます。
- 十分な注意が必要ですが、精製水で薄めれば、顔にも使用できます。
- ただし残念ながら、手のひら・足の裏の有効率は低いです。湿る程度の症状(レベル1)ならば効き目も高いようです。
○ アルミニウムの濃度と効果
制汗剤に含まれるアルミニウムの濃度によっても、効果の現れ方が違って来ます。
手のひらと足の裏には濃度の低いものではあまり効果がありません。手のひらの多汗症で病院に行った場合、通常処方されるのは20%の塩化アルミニウム水溶液です。それでも水滴が出来るレベル(レベル2〜3)では、効果のない場合が多いようです。わきの下の多汗症には、もっと低い濃度でも十分効果があります。
主にわきの下用として市販されているテノール液とオドレミンはそれぞれ、3.9%と13%です。わきの下用としては、オドレミンは比較的濃度が高いと言えます。
テノール液とオドレミンは主にわきの下用として売られていますが、手のひらや足の裏に使用しても構いません。一番濃度の低いテノール液を使用して、手のひらの汗が少なくなったという人もいます。濃度の違いは、効果が出るまでの時間の長さの違いとなって現れる場合もあります。薄いからといって必ずしも効き目がないわけではなく、時間がかかっているだけかもしれません。いったん効果が現れれば、あまり濃度の違いに関係なく効き目が持続するようです。
○ 各製品のアルミニウム濃度の比較
テノール液、オドレミン、塩化アルミニウム水溶液、それぞれのアルミニウム濃度を比較すると、次のようになります。テノール液(3.9%)<オドレミン(13%)<塩化アルミニウム水溶液(約20%)
製品によって多少成分が異なるため一概には言えませんが、より濃度の高い制汗剤で効果を得られなかった場合は、それより濃度の低い制汗剤では効果がないと考えられます。
逆に、薄いもので効果がなかった場合は、もっと濃いものを試してみると効き目が出るかもしれません。テノール液とオドレミンは主としてわき用の制汗剤として売られているものです。
濃度の最も薄いテノール液で効果があれば他のものを使用する必要はありませんが、テノール液には香料が入っており、そのにおいを嫌う人も多いようです。においがダメな場合はオドレミンまたは塩化アルミニウム水溶液を使用してください。テノール液より濃度が高くなりますので、薄めて使用しても構いません。その方が経済的でもあります。塩化アルミニウム水溶液についてはメーカー品はなく、通常は病院(皮膚科)で処方されています。
手のひら用としては、塩化アルミニウム濃度が20%のものが最もよく処方されます。
わきの下に使用する場合は、もっと濃度が低いもので十分なので、薄めて使用するとよいでしょう。アルミニウム配合制汗剤を薄める時は、精製水を使用します。精製水は薬局で普通に売られています。
○ 使用方法
テノール液、オドレミン、オドレミスト、塩化アルミニウム水溶液などのアルミニウムを含む外用制汗剤の使用方法は基本的には同じです。
ここでは共通点を説明しますので、個別の注意事項等についてはそれぞれの項目をご覧下さい。
- 出来るだけ汗の出ていない状態で皮膚に塗布します。その後も1時間程度は汗をかいていない状態を保つようにします。
(※汗を絶対かくな、というのも無理な話なので、出来るだけそのような状態で使用するよう心懸けるということです)(理由)
- 汗で薬剤が流れ落ちるのを防ぐ。
- 汗と薬剤が混じるとかぶれやすくなるためそれを防ぐ。
最もよいのは、就寝前の使用です。リラックスしているため、あまり汗をかかなくて済むからです。
- 特に、手のひらと足の裏に使用する場合は、就寝前に行うようにしてください。
(理由)
- 制汗剤を手のひらに塗った後は、乾くまで手作業が行えない。
- 眠っている間は手のひらと足の裏の汗が止まるため、薬剤が流れ落ちることもなく効果的である。
- 眠ってしまえば、薬剤のベタつきを気にしなくて済む。
塗った後は手袋をしたり靴下をはいて眠るといいでしょう。薬剤が寝具や衣類に付着しなくて済みます。手袋は運転用などに売られている白い綿のものでいいです。
- 一回に使用する量ですが、わきの下に関しては薬剤が使用部位に行き渡る量でありさえすればよいと思います。滴るほどは必要ありません。塗った後は、軽く刷り込む感じでよいでしょう。
手・足の場合は、皮膚が強いこともあって、ベタつく程度の量を十分刷り込むようにした方が効き目があるようです。
- 手のひらに使用した場合は、翌朝洗い流します。睡眠中に薬剤の作用は働いていますので、朝になって洗い落としてしまっても構いません。 他の部位に使用した場合でも、ベタつきが気になるようでしたら、洗い落としてください。
- 集中的に使用して効果を早めたい場合は、朝にももう一度使用するやり方がありますが、出来れば就寝前の1回にとどめるようにしてください。
- 上記の要領で毎日塗り続けます。
早い人だと2,3日、通常は1〜2週間で効果が現れます。3週間以上たっても効果が現れない場合は、残念ながらご使用の制汗剤では効果がないのかもしれません(あくまでも目安です)。
- いったん効果が現れると、しばらくの間効き目が持続します。だいたい1週間〜10日間くらいです。この間隔は人によって違います。
効果が現れた時点でいったん使用を中止してください。そして効き目がなくなるまで待ってみてください。そうやって自分の有効期間がどれくらいなのかを最初に把握しておきます。その後は、その有効期間の間隔を目安にして使用を続けます。
いったん効果が現れれば、有効間隔毎に使用するだけで効き目が持続します。
かゆくなったり、かぶれたりしますので、必要最小限の量で済ますことがコツです。
- なお、汗が完全に戻ってしまうと、またしばらく使い続けないと効果が出てきません。
汗が戻り始めたところで使用すれば、比較的短期間で効き目が出てくると思います。
汗が出ていない状態で使用すれば、効果がそのまま先延ばしされます。ですから、特に汗が出たくないという時があれば、その前日に塗っておくと大丈夫でしょう。
【使用方法のポイント】 ◇ 手のひらと足の裏の使用は就寝前が原則。
◇ わきの下も就寝前の利用が効果的。
◇ 効果が現れてからは、適当な間隔で使用して効き目を維持させる。
◇ かゆみ・かぶれ・毒性を考慮して、使用量・使用頻度は必要最小限にする。全身的、顔に使用する場合について補足しておきます。
- 代償性発汗(全身性多汗)に対しても使用できます。
基本的な使い方は同じです。ただ代償性発汗は睡眠中もありますので、汗のかいていない頃合いを見計らって使用して下さい。
- 顔にも使用できます。皮膚が敏感なので、目立たない部分で試してからにして下さい。
塩化アルミニウム水溶液のように濃度の高いものは、精製水で薄めて使用して下さい。○ 副作用について
【かゆみ・かぶれ】一番問題になるのは、かゆみとかぶれです。
使用量と使用頻度、使用部位によって、軽い場合から皮膚が荒れる場合までいろいろあります。
特に皮膚の弱いわきの下に使用すると、かぶれやすいです。わきの下に限って言いますと、テノール液のような薄いアルミニウム製剤では、かぶれないで済むことも多いようです。
オドレミンになると、やはり、かぶれたり、かゆくなってしまうことが多いようです。かゆみがひどかったり、かぶれたりした場合は、しばらく使用を中止して様子をみてください。
【汗疱】
小さい水疱がぶつぶつと生じることがあります。これは汗疱(カンポウ)といい、汗が汗口につまってうまく発散されないために起こります。汗がつまるという点ではあせもと似た現象です。
治るまで、しばらく使用を控えるようにして下さい。【他の場所で少し汗が増える】
汗が止まった人の中には、他の部分(胸や背中など)の汗が増えたと感じる人もいます。
しかし、問題になるようなレベルの量ではありませんので、心配いりません。◆ 各種のアルミニウム配合制汗剤
◎購入の際は、購入しやすいように通販サイトへのリンクページを設けていますので、そちらをご覧ください。→通販サイト
テノール液 [医薬部外品]
- ◇商品ページ
- テノール液
- ◇製造販売元
- 佐藤製薬株式会社
- ◇容量・価格
- 30ml、850円(税抜き)
- ◇塩化アルミニウム含有率
- 3.9%
- ◇形状
- ロールオンタイプ
- ◇成分
- アルミニウムヒドロキシクロライド、アルミニウムクロルヒドロキシアラントイネート、フェノキセトール、香料
- ◇効能
- 制汗(汗止め)、わきが、皮膚汗臭
- ◇購入方法
- 佐藤製薬と直接取引きのある薬局だと入手しやすいです。マスコットのゾウのサトちゃんが目印です。
- ◇使用方法
- ロールオンタイプですので、わきに直接塗ります。
- ◇特長
- 塩化アルミニウム濃度が薄いため、効き目が遅いこともありますが、痒み・かぶれもおきにくいです。
- 香料が入っているため、中にはニオイがだめな人もいるようです。
- 定着度をよくするため、粘着性の成分が含まれています。
オドレミン(ODOREMIN)[医薬部外品]
- ◇商品ページ
- オドレミン
- ◇発売元
- 日邦薬品工業株式会社
- ◇容量・価格
- 25ml、1,000円(税抜き)
- ◇塩化アルミニウム含有率
- 13%
- ◇形状
- 化粧水のようなビンに入っています。
- ◇成分
- <有効成分>塩化アルミニウム <その他の成分>グリセリン、水
- ◇効能
- わきが(腋臭)、皮膚汗臭、制汗
- ◇購入方法
- ・日邦薬品と直接取引きのある薬局だと購入しやすいです。
・日邦薬品のサイト(商品ページにも)に「お求め先ご案内」があります(※商品の取り扱いの有無は電話にて確認要)。- ◇使用方法
- ビンをよく振ってから液体を手に取り、直接わきなどにつけます。
- ◇特長
- 無臭でサラサラした液体です。
- 塩化アルミニウム濃度が少し高いので、かゆみ・かぶれに注意が必要です。
オドレミスト(Odore Mist)[医薬部外品]
- ◇商品ページ
- オドレミスト
- ◇発売元
- 株式会社中島薬局
- ◇容量・価格
- 50ml、2,245円(税抜き)
- ◇塩化アルミニウム含有率
- 13%
- ◇形状
- スプレータイプ
- ◇成分
- <有効成分>塩化アルミニウム <その他の成分>濃グリセリン 紅茶エキス オウゴンエキス ワレモコウエキス 無水エタノール
- ◇効能
- わきが(腋臭)、皮膚汗臭、制汗
- ◇購入方法
- 通販サイトで購入できます。
- ◇使用方法
- スプレータイプなので、噴霧して使用します。
- ◇特長
- 無香料
- 詰替え用があります。キャップ部分(ミストポンプ部分)を付け替えるだけです。
メーカー品はなく、病院での処方が中心です。ふつうは皮膚科で処方されますが、専門家にもあまり知られていません。美容外科でもわきの汗止め用として出されることがあります。
塩化アルミニウム水溶液(通称:塩化アルミニウム・ローション)
- ◇成分(処方)
- 病院によって塩化アルミニウム濃度などが異なりますが、最も一般的なものは20%濃度のもので、通常15〜25%くらいで処方されます。粉末状の塩化アルミニウムを精製水(蒸留水)に溶かして作ります。消臭・殺菌作用のあるエタノールを適量添加する場合もあります。
例えば、次のような処方になります。20%塩化アルミニウム水溶液=
塩化アルミニウム20g+10%エタノール溶液(全量100ml)
- ◇個人で製作する場合
- 塩化アルミニウムを薬局などで購入すれば、自家製の塩化アルミニウム水溶液を作ることが出来ます。
わき用であれば、塩化アルミニウム濃度は薄めの配合でよいでしょう。(例)5%塩化アルミニウム水溶液=
塩化アルミニウム5g+精製水[+エタノール適量](全量100ml) エタノールを添加した場合、人によってはヒリヒリ感を強く感じることがあります。その場合はエタノールを添加しないか、または数滴加えるだけにします。かぶれを併発していると、エタノールのヒリヒリ感がいっそう強くなると思います。
塩化アルミニウム、精製水、エタノールは薬局で購入出来ます。
伝言版より
「塩化アルミニウム液をお作りになる場合には塩化アルミニウム六水和物の特級試薬が一番です。それは粉と顆粒の中間くらいに精製された試薬です。腐食性(空気中の水分と反応してガスを発生する)や水と反応したときに熱を発生するという性質の試薬ですので、十分にご注意いただきたいと思います。」(2001/5/29)
- ◇使用方法
- 前項「アルミニウムを含む制汗剤について」の「使用方法」参照。
○ 海外のアルミニウム配合制汗剤
海外にも製品化されたアルミニウム製剤があります。塩化アルミニウム水溶液(Aluminium Chloride Hexahydrate)に相当する医薬品のほか、市販品もあります。
塩化アルミニウム水溶液については、日本と基本的に同じものだと思います。 市販品については詳しいことはわかりません。
Driclor
- ◇20%塩化アルミニウム水溶液(Aluminum Chloride Solution)。医師により処方されます。
- 説明はこちら。→ Driclor
Drysol
- ◇6.25%、12%、20%塩化アルミニウム配合のクリーム(Drysol Dab On)、20%塩化アルミニウム水溶液(DRYSOL Solution/Drysol Liquid)などがあるようです。
- ◇(旧記載)20%塩化アルミニウム水溶液。医師により処方されます。
- 写真と説明はこちら。→ Drysol
Certain Dri
- ◇12%塩化アルミニウム水溶液などがあるようです。
- ◇(旧記載)6%塩化アルミニウム水溶液。医師により処方されます。
- 写真と説明はこちら。→ Certain Dri(ホームページ)
ODABAN
- ◇スプレータイプ、ハンドクリーム、フットパウダーがあるようです。
- (※以下、旧記載)
- ◇オンラインで購入出来ます。ホームページはこちら。
ODABAN
- ◇塩化アルミニウム含有率
- 20%
- ◇特長
- 古くからある制汗剤のようです。ホームページではアルミニウムが浸透することはないと書かれています。
- 手のひら、腋の下、足の裏、顔などに使用できるとあります。
- 顔面にも使用できると説明されています。
- かゆみ・かぶれなども起きないよう工夫されているそうです。
- ◇ホームページから解説などを抜粋して和訳しましたので、参考にしてください。
抜粋和訳 (トップページ/[About ODABAN]/[Questions & Answers]/購入方法)
◆ その他の外用制汗剤
「アルデヒド類はおそらく角層で閉塞を起こすことにより発汗減少をもたらす。ホルマリン(5〜10%)か非アルカリ化グルタールアルデヒドを綿棒で外用するのが有効である。ただし、ホルマリンはしばしば感作物質として働くので、使用される頻度はより低い。」(『皮膚疾患マニュアル』メディカル・サイエンス・インターナショナル,1990)
3〜10%ホルマリンアルコール液
ホルマリンは、ホルムアルデヒドを水に溶かし込んだもので、37%の濃度のものが標準です(ホルムアルデヒドの37%水溶液)。
ホルムアルデヒドは無色でツンとくる刺激臭のある気体です。
局所の外用制汗剤としては、他に、5%タンニン酸、3%ホルマリンアルコール液、20%塩化亜鉛アルコール液などがあるようです。