光化学の用語集

光化学関連の用語集です。特殊な物よりも、良く聞かれる言葉について、
とにかくわかりやすく説明することに気を配りました。まだまだしょぼいですが、長い目で見てやって下さい。





・イオン化
・エアロゾル
・吸収帯
・クロストーク
・蛍光
・光電子増倍管(フォトマルチプライア)
・スペクトル線幅
・多光子吸収過程
・半値幅
・非線形光学
・分光器
・偏光方向

イオン化(Ionization)

原子や分子は、一定以上のエネルギーを与えられると電子を放出します。これをイオン化といいます。この時、原子はプラスの電荷を持ち、正のイオンと呼ばれます。
 与えるエネルギーは何でもかまいません。熱でも良いですけど、結構な温度にしないとイオン化しません。(数千度)放射線を照射されると簡単にイオン化しますし、紫外線なんかでも結構な種類の物質をイオン化できます。電子をぶつけるのも効果的です。イオン化に必要なエネルギーをイオン化エネルギーと言い、各原子、分子によって固有の値を持ちます。また、あまり沢山のエネルギーを与えると、沢山の電子が出てきて、原子や分子は多価イオンになる場合も有ります。
 どうしてイオン化するのかというと、原子や分子がエネルギーを与えられて励起状態になると、その中の電子はより高いエネルギー状態へと遷移して行きます。電子が核の引力を振り払って飛び出すくらいのエネルギーを得た場合、電子は核の束縛から解放されて戻って来なくなり、電荷を失った原子(分子)は正に帯電します。これがイオン化です。イオン化するには原子(分子)がどれ位電子を放出しやすいかと言う事が深く関係しています。イオン化エネルギーはイオン化傾向とも深く関係しています。
 逆にイオン化は電子を受け取る事でも為されます。この場合、原子(分子)はマイナスの電荷を持ち、負のイオンと呼ばれます。この現象は電子をぶつけたり、原子や分子と衝突する事によって引き起こされ、その傾向は電子親和力に深く関係しています。
 他にも、溶媒中にある分子が解離(ヘテロリシスな場合)する事によってイオン化する場合もあります。これはより安定な状態に変化する為で、一般的に熱を放出します。


エアロゾル(Aerosol)

 最近、南極上空成層圏のオゾン層破壊や地球温暖化、酸性雨などでエアロゾルの役割が注目されています。広い意味では「気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子」ですが、平たく言えば粉じんとか霧、スモッグの事です。1nm〜100μm位の大きさで、よくニュースで出てくるディーゼル黒煙、たばこ煙、アスベスト粒子も含まれ、環境汚染や健康影響の観点からも注目されています。


吸収帯(Absorption band)

 それは広い意味が有るでしょうが、光化学の観点で言えば、紫外・可視・赤外光が物質によって吸収される波長域を示すと考えるべきでしょう。物質は様々な光を吸収しますが、固体、液体等は、その吸収波長は一般的にバンド構造を持つので、幅を持った連続的吸収帯が存在します。気体の分子の場合も、不連続な吸収帯と連続の吸収帯があります。それぞれの物質に固有の吸収帯が存在し、その様な吸収帯で吸収した光はエネルギーとして、電子励起や並進運動、振動、回転、分解反応等に使われたり、電子や光の放出等、様々な事に使われます。


クロストーク(Cross talk)

 色々な使われ方があるようですが、「混信」「混線」「滲み」「横漏れ」を表します。例えば、隣のセルで発光している光が測定しているセルの測定強度に影響を与えたりする様な事です。


蛍光(fluorescence)

 一般的な蛍光は光化学で云う蛍光と少し違っています。簡単に言うと、蛍光を発するような物質に、ある波長の光を照射した場合、それよりも波長の長い光を発光した時、その光を蛍光と呼びます。入射した光子エネルギーよりも高いエネルギーを持つ光子は発生しないと言う事です。ちなみに、寿命がすごく長い物は「りん光」と呼ばれ、照射光を遮った後も長い物は数秒程度発光が続きます。


光電子増倍管(Photomultiplier:PMT)

 非常に僅かな光でも反応する、非常に一般的な光検出器。
 原理は光電管に光電子の多段増幅器を備えた物で、大抵は高電圧で動作します。(1〜3kV程度)光電面に入射した光子によって光電子が放出され、これが電位で加速され二次電子を放出し易い電極に衝突すると、更に多くの電子を放出し、更にそれが・・・となだれの様に次々に段階的に増幅されて最後に陽極に衝突して検出電流として得られます。大体、10段階位で増幅されて、最初の光電子の100万〜1000万倍の二次電子量に増幅されます。全て封じ切りの真空容器内で増幅される為、後でOPアンプ等で信号増幅する場合に比べて格段にS/Nが良いです。ちなみに光電子「倍増」管と、呼び間違えてはいけません。
 これの大きいやつを、いっぱい並べた装置(カミオカンデ)を使って小柴昌俊さんはニュートリノを観測しました。ニュートリノそのものを見たのではなく、ニュートリノが気まぐれに水を励起するのでその時の微弱な発光(チェレンコフ光:その発光システムはちょっと複雑)を光電子増倍管で見たわけですが。
 逆に光電子増倍管の多段増幅部のみの小さいやつを、蜂の巣の様に並べた物はMCP(マイクロチャンネルプレート、マルチチャンネルプレート)と言われます。二次元的に捕らえて増幅するので、信号強度が上がるばかりではなく、その後ろに蛍光体とCCDを置く事で二次元イメージ像を得る事が出来ます。そのままだと真空紫外光や、電子、イオンの検出だけですが、MCPの前に光電面を置くと高感度に可視光や赤外光のイメージング像を得る事が出来、それを一般にイメージインテンシファイアと呼びます。


スペクトル線幅(Spectrum resolution)

 発光や吸収の分光スペクトルを測定した時のピークの線幅を意味し、普通は半値幅(Full-width of half-maximum)で表します。特に発光線は、様々な影響を受けてスペクトル線幅が変化します。励起状態の寿命による自然幅、衝突による衝突広がり、運動によるドップラー広がり、電場によるシュタルク効果、磁場によるゼーマン効果等がそうです。しかし分光器で測定する場合最も影響が大きいのは、分光器の分解能でしょう。スペクトル線幅を理解するには、これら要因をコンボリューションして数値解析する必要が有ります。


多光子吸収過程(Multi-photon absorption process)

 普通、分子や原子は光子を一個ずつ吸収し反応を起こします。これは、緩和過程が早い為、励起中に更なる光子を受け取る確率が低い為と考えられます。しかし、十分に光強度が強くなると、同時に光子の吸収が行われる事があり、この確率は二乗に比例して増加します。この様に、光強度に対して非線形に発生確率が増加する現象を、非線形光学現象と呼びます。特に光強度の強いレーザー光を集光して使用した場合顕著です。多光子吸収は一個の光子で励起、更にもう一個でイオン化という風に、イオン化に利用されます。これを共鳴多光子イオン化(REsonanced Multi-PhotoIonization:REMPI)と言い、(1+1)と表します。他にも(2+1)等もあり、この場合二光子で励起して、三光子目でイオン化します。二光子で共鳴準位に励起する時、中間準位は存在しない為、より高エネルギーの共鳴準位がハイゼンベルグの不確定性原理によって薄く広がっているのを利用して励起するのだと云われています。単純に二光子でイオン化した場合は多光子イオン化と言いますが、共鳴させない場合に比べて、イオン化効率が格段に下がってしまいます。


半値幅(Full-width of half-maximum)

 半値幅とは、ピーク値の半分の値でピーク形状を切った時の、横幅で示し、eVやnm、cm-1等で表す事が多いです。
 実際に、半値幅を計算する方法を図にしてみました。
半値幅の求め方
 ベースラインが激しく傾いている時は、一旦ベースラインを引いて傾きを戻してからの方が良いし、データポイントが少ない時はフィッティングしてから半値幅を計算した方が良い場合も有りますが、大体図のやり方で合う筈です。


非線形光学(Nonlinear optics)

 レーザに出現により、これまでよりも強度(振動する電場強度)が非常に強い光を手に入れる事が出来た為、発光強度に比例せず、発光強度が強い程顕著になる現象が現れてきました。これを扱うのが非線形光学です。物質から整数倍の周波数の光が放出される「光高調波発生」、二つの光を混ぜ合わせて、別の波長の光を発生させる「光混合」、同時に複数の光を吸収・発光する「多光子遷移過程」等、様々な現象を扱います。



分光器(Monochrometer)

 光化学ではしばしば現れる言葉ですが、光化学以外でも非常に頻繁に利用されています。分光器とは、光を波長別(エネルギー別)に分けるための装置です。例えば、太陽光は白色光といわれる連続的な波長成分を持つ光ですから、分光器で分けると非常に幅広い波長範囲で光を検出できます。この各波長成分に対しての光の強度分布を記録した物がスペクトルです。
 波長を分離する為には、プリズムか回折格子を使います。プリズムは光の波長による屈折角の違いを利用して光を分けます。太陽の光をプリズムで七色に分けるのを見た事が有りませんか?しかしこれは、透過率の高い材質しか使用できませんし屈折角の差もあまり大きくないので分解能が良くありません。一方、回折格子は溝の細かく刻まれたCDのような輝きを持つ反射板で、光の回折と干渉を利用して波長を分離します。バックグラウンドが小さく、反射率が高いので効率が良く、広い波長範囲で使える材質を使用しているので通常分光器には回折格子が広く用いられています。
 また、分光器にとって非常に重要な性能は分解能です(それ以外にも迷光除去率、明るさ等も重要です)。どれ位の細かさで波長成分を分解できるかによって分子発光等の鋭い線スペクトルをより正確に記録できるかが決まります。分解能を決める要因は様々ですがその中でも特に重要かつ簡単に良し悪しを判断できる要素として、スリットと回折格子の刻線数と焦点距離です。スリットは、入射する光の幅が太ければそれだけ検出器で分けられる光の波長が広がるので当然と言えば当然です。刻線数は回折格子の原理(干渉)に関わる事で、単位距離あたりどれ位細かく溝を掘ったかによって、分解能が決まります。0.02nm程度の分解能を得る為には最低1200本/mm程度の刻線数が必要です。焦点距離も長ければ長いほど空間的に分解できる線幅が小さくなるために分解能が良くなります。
 例えば目安として、実質的な波長分解能が0.02nm程度必要であれば、スリット幅10μm程度で、焦点距離は500mm程度、回折格子の刻線数は1200本/mmは必要です。
 また、分解能は検出器によっても影響されます。通常使われる検出器はCCD(Charge-coupled device:電荷結合素子)とPMT(Photomultiplier:光電子増倍管)です。PMTの場合、直前に置く射出スリットによって波長を絞り込みます。高感度ですが、高電圧(-3kV程度)が必要です。CCDの場合には、画素の細かさによって分解能が左右されます。上に示した構成の分光器なら、1024×256画素、1画素25μm程度のCCDで、せいぜい0.03nmが限界ではないかと思います。一度にある程度の範囲の波長を測定する事ができる点で非常に優れた検出器ではありますが、PMTよりも低感度で反応が遅い等のデメリットも有ります。
 最後に、分解能は測定する波長によっても変わります。波長が長くなるに連れ分解能は悪くなり、波長が短くなるに連れ分解能は良くなります。
 このような分光器の光学配置方法には、ツェルニターナ形、パッシェンルンゲ形、ローランド形、イーグル形、ワーズワース形、エバート形等があり、特にツェルニターナ形にはZ型とU型があり、どちらも多くの可視光分光器に用いられています。



偏光方向(Polarized direction)

 円偏光で無い直進する光で、偏光面のある方向、光の電場ベクトルの指す方向を云います。普通の発光は円偏光と云って電場ベクトルが特定の方向を向いていません。この光を偏光フィルターや偏光子等を通す事によって、電場ベクトルの方向を一方向に揃える事が出来ます(強度は下がりますが)。光の様に偏光方向を揃える事で、散乱光を低減したり、モジュレーションを掛けたり、液晶に吸収させたりさせなかったり出来ます。



● HPのTOPに戻る ● PhotochemistryのTOPに戻る


ご意見・ご感想