電子ビームの解説2:レーザと電子ビームの違い




 レーザは光子の粒子線です。光子は電子よりもはるかに小さくて粒子の性質よりも波の性質(波動性)を強く持っています。そうすると、干渉回折等の効果が現れてきて、困ったことも発生します。

 例えば、レーザを出来るだけ小さく絞り込んで照射しようとした時、我々はレンズを使います。

 ところが幾ら絞り込んでも、その焦点は無限に小さくなるわけでは有りません。何故かと言うと回折によって光が広がってしまうからです。

 この広がりを小さくする為には、屈折角度を大きくして、且つ集光点までの距離を小さくしてやれば良い訳ですが、非常に大きくて、焦点距離の短いレンズを作るのは限界があります。(屈折率の大きさは材質で決まってしまうからです)

結局、焦点を小さくするには波長を小さくするしかなく(回折広がりは波長が小さいほど小さい)、半導体微細加工の世界では、リソグラフィーに使用する光の波長をどんどん小さくしています。



 ところが、電子は光子よりも質量が大きく、波動性よりも粒子性が遥かに勝っています。

従って、回折や干渉は非常に弱く集光性は光よりも遥かに勝っています。

だからこそ、昔から処理時間がそれほど問題にならないようなリソグラフィー用のレチクル(フォトマスク)の微細加工には走査型電子ビームが使われてきたし、将来の微細加工に向けてレーザではなくて電子線(Electron Beam: EB)を使った半導体リソグラフィーを立ち上げるプロジェクトが国家規模で進行しています。



 更に、光は吸収されたり、反射したりします。

 「電子だって、吸収されるじゃないか」、その通りです。

 しかし、電子と光は吸収のされ方がちょっと違うのですが、この違いが決定的な性能の差を分けることもあります。

 例えば、光で硬化するインクが有ったとしましょう。このインクは色々な色の顔料が入っていているかも知れません。

 しかし、薄い色のインクと黒い色のインクを同時に硬化させたいのに、薄いインクはちゃんと硬化しているのに、黒いインキは表面だけしか硬化せず、滲んでしまいました。何故でしょう?

 これは、光が表面でほとんど吸収され、奥のほうまで届かなかったせいです。

 十分硬化させる為に照射時間を長くしようとしても、大量に印刷物を印刷するのに一枚に十倍も百倍も時間を掛けている暇はありません。

 こんな時、電子ビーム硬化ならインキの色の濃さはほとんど問題になりません。

 何故なら、電子のエネルギーは光よりも遥かに高く、光が吸収される吸収帯と全く異なる吸収帯によって吸収される為です。

 ここでの吸収帯は色とは関係なく、主に材料の密度と関係しています。インクの色が変わっても著しく密度が変わる事が無いのでこの様な硬化不良は無くす事が出来ます。



 また、電子はレーザと違って、自由にエネルギーを変える事が出来ます。

 レーザは、基本的に発光波長が決まっています。
 確かに、OPODyeレーザを使えば狭い範囲で波長を変える事が出来ますが、限界はあります。

 つまり、単純な方法では、短波長化を行った場合、光学系が不透明になってしまう事、ダイナミックレンジが高々数eV(eVはエネルギーの単位です)程度に留まる事です。

 幾ら、可視・紫外域を可変にしたところで、レーザは0〜10eVのエネルギー範囲に過ぎませんが、電子ビームは、原理的には0〜∞eV、実用的には数k〜数MeVのエネルギーが容易に得られます。

 では、この事が何かの役に立つのでしょうか?

 それは、電子の進入深さ(反応領域)制御に役立ちます。

 実は、電子がどれ位の深さまで進入して反応を引き起こすかは、材料の密度と電子の入射エネルギーに大きく依存しています。



エネルギーと侵入深さ 電子のエネルギー減衰の原因は、二次電子放出・X線放出・結合生成・結合解離など多岐にわたりますが、その多くは電子同士の相互作用によるものが多く、その消費エネルギーはそれほど大きくないので、電子は何度も衝突を繰り返しながら、かなりの深さまで進入します。

 衝突が起こる頻度は物質の密度が高ければ高いほど起こりやすい事は安易に理解できますが、電子のエネルギー増加に対しては、数百eV位までは衝突頻度が増加しますが、それを超えると逆に減少していきます。


 実用的な加速電圧である数十k〜数百keVに達すると衝突頻度は著しく低下して、樹脂等への電子の進入深さは数μm〜数百μmに達します。

 何故この様な事が起こるかと言うと、エネルギーが高くなった電子は速度が速くなり、他の電子と相互作用する時間が短くなるからです。
 これは、速度が速くなっても必ず壁に衝突する車とは感覚的にかなり異なります。

 そもそも電子同士は点の様なものですから、衝突すると言ってもボール同士がぶつかり合うのとは訳が違い、それぞれの有効な領域に相手が入るかどうかで相互作用する確率が変動します。

 この領域を衝突断面積と言います。
 衝突断面積が大きいと、車と壁の様にぶつかり合います。

 しかし、衝突断面積が小さいとぶつかり合うかは、車とパイロンの衝突の様に運まかせです。

 電子の速度が光速に近づき、相対論的に振舞い始めると、この衝突断面積がどんどん小さくなり、衝突は確率が支配する為、この様な事が起こります。



 この事から、分かるように、電子線照射の場合、加速電圧によって反応を起こす領域をコントロールする事が可能になります。
 例えば、これを使えば、表面から数十μmまでのゴムを電子線により架橋して強度を増すことや、薄い樹脂のシートの片側表面数十μmだけに特殊な表面処理を施したり、紫外線硬化の難しい顔料の多い百μm近い厚手のコーティングを加速電圧を上げて硬化する事が可能です。

 それだけでは有りません、電子線の高いエネルギー付与能力を利用すると、光やレーザで達成できなかった反応を引き起こす事が可能になります。

 例えば、滅菌を行う場合、紫外線ではせいぜいDNAの塩基部分を変性させて転写が出来にくくなる程度の損傷しか与えられず、酵素によって修正される為に十分な滅菌効果が得られない場合がありますが、電子線ですと、塩基配列そのものを破壊するに至り、より効果的に滅菌を行う事が出来ます。

 また、光では分解が難しい安定な化学物質、例えばPCBやダイオキシン等も、電子線なら結合切断に十分なエネルギーを付与する事が可能で、有害物質の除去などにも一役買っています。


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