「アインシュタインの予言」 みなさん,こんにちは。山口大学理学部の白石です。今日は藤沢先生の前座ということで,ちょっとだけ時間を拝借。 まあ,何といっても,昔も今も,宇宙を支配しているのは,重力です。20世紀に入ってから,重力の奥の深さを明らかにしたのはアインシュタインです。彼はいくつかの予言(正確に言うと,一般相対性理論の予言)をしました。 1.ブラックホール 2.重力レンズ効果 3.重力波 これらはすべてアインシュタインが1916年頃に完成させた彼の重力理論,「一般相対性理論」から導かれるものです。一般相対性理論では,重力は「時空の歪み」として記述されます。ニュートンの理論は,重力が弱いときのふるまいは完璧に説明しますが,重力の強いところ,すなわち非常に大きな質量の近くが関係してくる場合などは,一般相対性理論を使わなければなりません。 では詳しく見ていきましょう。 *ブラックホール 重力が非常に強い場所では,光さえも脱出することができなくなります。これがブラックホールです。ひらたくいえば,狭い場所に質量が集中した状態です。 比較的軽質量のブラックホールの候補は,銀河系の中にかなりの数見つかっています(おもにX線による観測による)。超重量の恒星が進化の最終段階として超新星爆発を起こし,その残存物としてブラックホールが作られます。 銀河中心部に巨大なブラックホールがあることが分かってきました。クェーサー,電波銀河では,中心部の狭い領域から莫大なエネルギー(例えば1秒間に10^46エルグ=10^39W〜太陽の10兆個分)が放出されます。これらのエネルギー源は重力以外考えられません。重力により引き込まれたガスは回転しながら落ちていきます。このとき,位置エネルギーが落下時に解放され,放射になります(放射以外にジェットを出す)。エネルギー変換効率は6%程度と非常に大きくなります(水素核融合では,〜0.7%)。 ブラックホール周辺には,落下しつつあるガスやちりにより降着円盤が形成されます。この内部での数百万度の摩擦熱により,電波やX線としてエネルギーが解放されるのです。このため,降着円盤はほとんどの波長で光って見えます。 ガス円盤中の原子や分子の励起状態が,雪崩的な遷移をおこし,強力な電波(マイクロ波)を発生する現象が観測されています。この現象はメーザーと呼ばれます。NGC4258 (M106,りょうけん座)の活動銀河中心核(AGN)からの水メーザー(22GHz,1.3cm)のVLBI観測が日本・アメリカグループによってなされました(Nature 1995/1/12号)。このスペクトルの解析により,ドップラー効果からガスの回転速度を決定(秒速770〜1080km),メーザー源の範囲,分子ガス円盤の形状,中心のブラックホールの質量(太陽の3600万倍の質量が半径0.4光年の範囲に)が判明しました。さらに,われわれからの距離の正確な情報(2350万光年)が得られています。2001年には同様にIC2560(ポンプ座)が観測され,われわれからの距離(8500万光年),質量(太陽の280万倍)がわかりました。 一般に,活動的銀河中心(必ずしもぴったり中心ではないが)には太陽の1000万倍〜1億倍の質量の巨大ブラックホール(M87では太陽25億個分)があり,その半径は1天文単位程度,その周辺の降着円盤の大きさは0.01光年程度のようです。これを電波でみるにはVSOPなど地球を超えたスケールの干渉計が必要となりますが,将来的に十分観測可能です。 ちなみに,われわれの銀河(銀河系)の中心部には太陽質量の260万倍のブラックホールがあるとされています。 *重力レンズ効果 質量の大きい天体の近くでは,時間や空間が「ゆがんでいる」ので,天体の背後からの光は曲げられます。また,場合により,いくつもの像がわれわれに観測されることとなります。 太陽により恒星の光が曲げられる,すなわち側に太陽があると,恒星の天球上の位置は見かけ上,ずれます。1919年,日食時に観測され,一般相対性理論,いや,アインシュタインの名が不朽のものとなりました。この場合,単に曲げられて位置が変わって見えるだけなので,「光線の湾曲」とよび,レンズ効果とはあまり呼びませんが,もちろん原理的には同じです。 クェーサーで重力レンズが見つかったのは20年以上前のことですが,可視光では,ハッブル宇宙望遠鏡による,銀河の写真のインパクトは強烈です。 VLBIでならミリ秒くらい離れた像を見ることができますので,細かいところも十分解析できます。もちろん,電波も光同様電磁波ですので,重力レンズ効果を被るわけです。 さて,惑星でもレンズ効果はおきるでしょうか?今年(2002年)9月8日,QSO J0842+1835の3.7分のところを木星が通ります。電波の道筋による時間の遅れ(137ピコ秒),その動的過程(重力の伝搬による遅れ6ピコ秒)がVLBIで観測できるという考察がなされています。 *重力波 電磁波と同じように,源から離れた空間を波の形で重力エネルギー(時空の歪み)が光速で伝搬することができます。これはニュートン重力ではけっして導かれません。 地上での検出装置は日本,アメリカなどで建設されています。割合にして10^-20程度の伸び縮みの検出を目指します。 天体とわれわれの間の重力波が,天体からの電波の到達の遅れとして観測できると思われます。重力レンズ効果観測へ影響してきますので,その解析によって重力波の存在がわかるかもしれません。 *その他 宇宙論においても電波観測は重要です。三角測量の要領で,天体の距離を精密に測ることができます。VLBIで0.001秒まで視差がはかれれば,1000pcまでの距離の直接測定可能です。 宇宙における距離の決定は,宇宙の膨脹,その歴史的進化,加速はどのくらい続いたのかを精密に決めることに不可欠です。これは宇宙の起源,銀河の起源を探るのに非常に重要です。 電波望遠鏡による観測およびあらゆる波長での観測が,アインシュタインの予言の正しかったことを証明し,そして宇宙の神秘を解き明かしていくことでしょう。 参考文献 21世紀こども百科 宇宙館 小学館 NHKスペシャル 宇宙 未知への大紀行 4 NHK出版 粟野諭美ほか マルチメディア宇宙スペクトル博物館<電波編> 裳華房 柴田一成ほか編 活動する宇宙 裳華房 吉岡一男 宇宙の観測 放送大学テキスト 半田利弘 はじめての天文学 誠文堂新光社 尾崎洋二 宇宙科学入門 東京大学出版会 岡村定矩編 天文学への招待 朝倉書店