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\documentstyle[12pt,graphics]{jarticle} \newcommand{\be}{\begin{equation}} \newcommand{\ee}{\end{equation}} \newcommand{\bea}{\begin{eqnarray}} \newcommand{\eea}{\end{eqnarray}} \newcommand{\nn}{\nonumber \\} \newcommand{\vnabla}{{\bf \nabla}} \newcommand{\vsigma}{{\bf \sigma}} \newcommand{\vA}{{\bf A}} %vector potential \newcommand{\vB}{{\bf B}} % \newcommand{\vD}{{\bf D}} \newcommand{\vE}{{\bf E}} \newcommand{\vF}{{\bf F}} \newcommand{\vg}{{\bf g}} \newcommand{\vH}{{\bf H}} \newcommand{\vI}{{\bf I}} \newcommand{\vi}{{\bf i}} \newcommand{\vJ}{{\bf J}} \newcommand{\vj}{{\bf j}} \newcommand{\vM}{{\bf M}} \newcommand{\vP}{{\bf P}} \newcommand{\vS}{{\bf S}} \newcommand{\vs}{{\bf s}} \newcommand{\vv}{{\bf v}} \newcommand{\vx}{{\bf x}} \newcommand{\tr}{{\rm tr}} \newcommand{\Tr}{{\rm Tr}} %%%%%%%%%%%%%%% %\hfill {ver. 1.0} %%%%%%%%%%%%%%% \title{ イジング模型入門 } \author{ 白石 清(山口大学理学部) } \date{1998年2月17日改訂} \begin{document} \maketitle \begin{abstract} もちろん私はこの方面の素人ですから, ごく入門的なことに限ります。 計算機(あるいは専用計算機)を使った研究については, 専門家に聞いて下さい。 数学的に厳密な解けるモデルについても,専門家に おまかせします。 まだ図をちゃんと入れてないので,いつかは何とかしたいです。 \end{abstract} \section{序} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 古典力学でも量子力学でも,われわれが最初に扱う例では 自由粒子を考える。それに力が働いたとき,運動がどうなるかを 考察していくのが,暗黙の定石だろう。 しかし,自然界で相互作用のないものは, 実はほとんどないことが,すぐにわかる。 特に物質の内部構造を考察していくと,自由な運動エネルギーよりも 相互作用エネルギーだけが効くような場合が,いくらでも 考えつく。 相互作用エネルギーのみに支配された,最も簡単なモデルが イジングモデル,およびその類である。ここでは, 簡単なモデルから出発して,どのようなテクニックでモデルを扱うか, またその素粒子物理への応用まで,順を追って見ていこう。 \section{磁性体のモデル} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% \subsection{外場とのみ結合した系} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 磁性体は,低温では自発的に磁化の向きがそろい, 磁石として用いられるような物質の総称である。 \footnote{強磁性体はこんなイメージ?} ここで,磁性体を小さな磁石の集まり($N$個,$N$はおおきいとする) としてモデル化 してみよう。これらが外場とのみ結合しているとする。 また,簡単のため,小さな磁石の向きは,磁場の向きに対して 平行か反平行のむきしかとれないとする。 \footnote{小さな磁石をスピン1/2粒子と思えば, 量子力学的にもっともな仮定である。} このとき,$\mu$を適当な定数として, エネルギーは次のように書ける。 \be E=-\mu\sum^N_{i=1}s_iH, \ee ここで$s_i=\pm 1$とする。 この系のカノニカル集合による分配関数(partition function) は \bea Z&=&\sum_{すべての状態}\exp\left(-\beta E\right)~~~~~~~~~~ (\beta\equiv\frac{1}{kT}) \\ &=&\sum^{+1}_{s_1=-1}\cdots\sum^{+1}_{s_N=-1} \exp\left(-x\sum^{N}_{i=1}s_i\right)~~~~~ (x\equiv\frac{\mu H}{kT}) \\ &=&\prod^N_{i=1}\left\{\sum^{+1}_{s_1=-1}\exp (xs_i)\right\} \\ &=&\prod^N_{i=1}\left(2\cosh x\right) \\ &=&2^N\cosh^N x \eea 系の自由エネルギーは \be F=-kT\ln Z=-NkT\ln\cosh x \ee である。 これから,磁化は次のように計算される。 \bea M&=&-\left(\frac{\partial F}{\partial H}\right)_T= kT\frac{1}{Z}\frac{\partial Z}{\partial H} \nn &=&\frac{\sum\mu s_i e^{-\beta E}}{\sum e^{-\beta E}}= kT\frac{\partial}{\partial H}\ln Z \nn &=&NkT\frac{\partial x}{\partial H} \frac{\partial}{\partial x}\ln\cosh x \nn &=&N\mu\tanh x \label{eq:nmt} \eea \begin{figure}[ht] \includegraphics[20cm,8cm]{isifig1.eps} \caption{$tanh x$のグラフ。} \end{figure} 磁化$M(x)$は何を表しているだろうか。 低温($x\rightarrow\infty$)では,$M=\pm N\mu$, すなわち,小さな磁石の向きは全部そろっている。 高温($x\rightarrow 0$)では,$M=0$, すなわち,小さな磁石の向きはでたらめで,平均すると$0$になっている。 これは熱ゆらぎが最大限に効くためである。 有限の温度では,磁場の効果と,熱ゆらぎの効果が拮抗して, $M$の絶対値は$0$と$N\mu$の間の値となっている。 \subsection{平均場近似} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 今のモデルの例では,小さな磁石は,あたかも試験粒子のように 外場に影響されるだけと考えてきた。ここでは次に, 小さな磁石たちのつくる磁場も全体としての磁化に効くものとして, 考えに入れてみる。このことはすなわち,小さな磁石同志が相互に 影響を及ぼすことを意味する。 一番簡単かつ強力な取り扱い方を,平均場近似,あるいは分子場近似と呼ぶ。 この近似では,今まで純粋な外場として扱った$H$を実効分子場$H_{eff}$ で置き換える。実効分子場は \be H_{eff}=H+\lambda M(T,H) \ee であたえられる。実数のパラメータ$\lambda$がゼロのときには 前の解析と一致する。一般にゼロでない$\lambda$は, 小さな磁石同志の相互作用の大きさを表すことが,後に解る。 さて,(\ref{eq:nmt})で$H$を$H_{eff}$と置き換えると \be M=N\mu\tanh\frac{\mu(H+\lambda M)}{kT} \ee となる。 最初に,外場$H=0$の場合を考えてみよう。 この場合,磁化$M$は次の方程式の解として求められる。 \be M=N\mu\tanh\frac{\mu\lambda M}{kT} \ee ここで$M=\frac{kT}{\mu\lambda}x$とおくと 解は曲線$y=N\mu\tanh x$と直線$y=\frac{kT}{\mu\lambda}x$ の交点であたえらる。 定数の値に関わらず,$x=0$はひとつの解である。 これは磁化のないことを表すから,自明の解である。 また,$\frac{kT}{\mu\lambda}>N\mu$のとき,これ以外の解はない。 ところが,$\frac{kT}{\mu\lambda}0$のときは隣り合うスピンがそろった向きをもっている方が, エネルギーを下げる寄与をする。逆符号のときは,逆の効果である。 \footnote{$J>0$の場合は常磁性,$J<0$の場合が反磁性の物質に対応する。 (もちろんおおまかな分類ではある。)} ここでは,$J>0$の場合のみ考える。 このようなモデルを「イジング模型」とよぶ。 数学,数理物理学的な研究は丹念に行われてきている。 厳密に解ける場合が知られている。 一次元の場合には,E. Isingがすぐに解いた。 二次元イジング模型は,L. Onsagerによって解かれた。 まずは, 近似によって,系のふるまいを考察してみる。 \subsection{イジングモデルと平均場近似} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 系のエネルギーが(\ref{eq:ising})で表される系を考える。 まず,$k$番目,つまりラベル$k$をもつ特定のスピンに注目する。 このスピンによる,エネルギーの寄与は \be E_k=\left[-\sum_{iはkの隣}J \langle s\rangle_i- \mu H\right]s_k \ee ここで$\langle s\rangle$は,いろんな可能な配位のうち の平均を表す。(いま,厳密に「平均」の定義はしない。) すると \be E=-\mu\sum^N_{k=1}s_k H_{eff} \ee と書け,ここで$z$を1スピンについての隣のスピンの数とすると, \bea H_{eff}&=&H+\frac{J}{\mu}z\langle s\rangle \nn &=&H+\frac{zJ}{N\mu^2}M \eea である。磁化$M$は$M=N\mu\langle s\rangle$。 前節における$\lambda$を$\lambda=\frac{zJ}{N\mu^2}$と おいたものと一致している。すると前節の結果から \be T_c=\frac{N\mu^2\lambda}{k}=\frac{zJ}{k} \ee となる。 $\lambda$は相互作用の定数$J$に比例している。 また$T_c$は今の場合$N,\mu$によらないことに注意しよう。 平均場近似の意味を考えるために, 臨界温度近くでの磁化のふるまいを,平均場近似で 求めよう。 磁化$M$は \be M=N\mu\tanh\frac{\mu\lambda M}{kT} \ee であたえられる。$\frac{\mu\lambda M}{kT}<<1$のとき \be M=N\mu\left(\frac{\mu\lambda M}{kT}-\frac{1}{3} \left(\frac{\mu\lambda M}{kT}\right)^3+\cdots\right) \ee ゆえに右辺を第2項までで近似すると \be M=\sqrt{3}\left(\frac{kT}{\mu\lambda}\right) \sqrt{\frac{T_c}{T}-1} \approx \sqrt{3}\left(\frac{kT_c}{\mu\lambda}\right) \sqrt{\frac{T_c-T}{T_c}} \ee 臨界温度付近では,磁化は \be M\propto (T_c-T)^{1/2} \ee のような,べき乗のふるまいをする。 平均場近似で得られることは, \begin{itemize} \item 相転移がある臨界温度で起きること。 \item 臨界温度近くでの磁化のふるまいが,べき乗のふるまいであること ($M\propto (T_c-T)^{\nu}$のかたち。)。 \end{itemize} である。 しかし,イジングモデルを近似によらずに解いたときには, 臨界温度の値や,磁化などの臨界温度近くでのふるまいの 指数が,かなり違ってくることがある。 まず注意すべきは,平均場近似では,臨界温度やその近くのふるまいが 次元に本質的にはよらないことである。 実際のイジングモデルでは,低次元のとき,その近似とのずれが顕著になる。 特に,一次元,二次元のイジングモデルは厳密に数学的に解くことができ, 以下のことが知られている。 \begin{itemize} \item 一次元イジングモデルでは,相転移がない (あるいは$T_c=0$である。)。 \item 二次元イジングモデルでは,$M\propto (T_c-T)^{1/8}$ \end{itemize} 次の節では,一次元イジングモデルを厳密に解くことを考える。 \section{一次元イジングモデル} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 一次元イジングモデルでは,系のエネルギーは, \be E=-J\sum_{i=1}^{N-1} s_i s_{i+1}- \mu\sum_{i=1}^{N}s_i H \label{eq:1dising} \ee ここで$N$個のスピンが直線上に並んでいるとした。 てはじめに,外場$H=0$のときを考える。分配関数は \be Z_N=\sum_{-1}^{+1}\sum_{-1}^{+1}\cdots\sum_{-1}^{+1} \exp\left(\sum_{i=1}^{N-1}\frac{J}{kT}s_i s_{i+1}\right) \ee となる。 これに一個スピンを付け加えるとすると,付け加えたスピンの向きは, $N$番目のスピンの向きと平行,あるいは反平行だから \be Z_{N+1}=Z_N\times\left(e^{\frac{J}{kT}}+e^{-\frac{J}{kT}}\right) =Z_N\times 2\cosh\frac{J}{kT} \ee また一方,$Z_1=2$(または$Z_2=4\cosh\frac{J}{kT}$)なので, 帰納法により, \be Z_N=2^N\cosh^{N-1}\frac{J}{kT} \ee となることが解る。熱力学的極限で,$N\rightarrow\infty$と 考えなくてはならないから, \be Z_N=\left(2\cosh\frac{J}{kT}\right)^N \ee と書いても等価である。 つぎに,外場のある場合を考えよう。 簡単のため,周期境界条件をつける。 すなわち,$s_N$の右隣に$s_1$ がくるとおもう。 分配関数は次のように書ける。 \be Z_N=\sum_{s_1=-1}^{+1}\cdots\sum_{s_N=-1}^{+1} f_{1,2}f_{2,3}\cdots f_{N,1} \ee ここで \be f_{i,i+1}=\exp\left\{-\beta\left[ -J s_i s_{i+1}-\frac{1}{2}\mu H (s_i+s_{i+1}) \right]\right\}, \ee $\beta=\frac{1}{kT}$である。 $f$を,$s_i$,$s_{i+1}$の値に対して考えれば, $(+1,+1)$,$(+1,-1)$,$(-1,+1)$,$(-1,-1)$に対応した つぎのような$2\times 2$行列の$T$でかける。 \be T=\left( \begin{array}{cc} e^{\frac{J}{kT}+\frac{\mu H}{kT}} & e^{-\frac{J}{kT}}\\ e^{-\frac{J}{kT}} & e^{\frac{J}{kT}-\frac{\mu H}{kT}} \end{array} \right) \ee この行列を用いて分配関数をあらわすと \be Z_N=\Tr T^N \ee となる。 あとはこれを計算すればよい。そのためには, 行列$T$を対角化すればよい。 すなわち \be T=S\Lambda S^{-1} \ee \be \Lambda=\left( \begin{array}{cc} \lambda_+ & 0\\ 0 & \lambda_- \end{array} \right) \ee ここで$\lambda_+$と$\lambda_-$($\lambda_+>\lambda_-$)は $T$の固有値である。 $\lambda_+$と$\lambda_-$は次の方程式の解である。 \be \lambda^2-2e^{\frac{J}{kT}}\cosh\frac{\mu H}{kT}\lambda+ 2\sinh\frac{2J}{kT}=0. \ee 解は, \be \lambda_{\pm}=e^{\frac{J}{kT}}\cosh\frac{\mu H}{kT}\pm \sqrt{e^{\frac{2J}{kT}}\sinh^2\frac{\mu H}{kT}+e^{-\frac{2J}{kT}}} \ee である。\footnote{ 外場$H=0$のときは,$\lambda_+=2\cosh J/kT, \lambda_-=2\sinh J/kT$となる。} したがって,分配関数は \bea Z_N&=&\Tr T^N=\Tr (S\Lambda S^{-1})^N=\Tr S\Lambda^N S^{-1}\nn &=&\Tr \Lambda^N=\Tr\left( \begin{array}{cc} \lambda_+^N & 0\\ 0 & \lambda_-^N \end{array} \right)=\lambda_+^N+\lambda_-^N \eea となって,\footnote{ 外場$H=0$のときは,$Z_N=2^N(\cosh^N J/kT+\sinh^N J/kT)$となる。} さらに$N\rightarrow\infty$のとき \be Z_N\approx\lambda_+^N \ee このとき自由エネルギーは \bea F&=&-KT\ln Z_N=-NkT\ln\lambda_+\nn &=&-NkT\ln\left[e^{\frac{J}{kT}}\cosh\frac{\mu H}{kT}\pm \sqrt{e^{\frac{2J}{kT}}\sinh^2\frac{\mu H}{kT}+e^{-\frac{2J}{kT}}} \right] \eea では磁化はどうなるかというと, \be M=-\left(\frac{\partial F}{\partial H}\right)_T= N\mu\frac{\sinh\frac{\mu H}{kT}}{\sinh^2\frac{\mu H}{kT}+ e^{-\frac{4J}{kT}}} \ee となる。 あらゆる有限の温度において $H\rightarrow 0$のとき$M\rightarrow 0$,すなわち 自発磁化をもつ相はない,あるいは相転移が起きない, あるいは相転移温度は$T_c=0$,といえる。 以上が,一次元イジングモデルを厳密に解いた結果である。 \section{高温展開} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% ここでは,一般の次元で,スピンが等間隔の 正方格子上に配置しているとする。 分配関数は,外場のないとき,次のように書ける。 \be Z=\sum_{s_1=\pm 1}\sum_{s_2=\pm 1}\cdots\sum_{s_N=\pm 1} \exp\left(\frac{J}{kT}\sum_{}s_i s_j\right) \ee ここで$$は最近接のペアを意味する。重複して数えない。 書き直すと \be Z(K)=\sum\sum\cdots\sum \prod_{}e^{Ks_i s_j} \ee ここで$K=\frac{J}{kT}$ 各$s_i$は$\pm 1$をとるので, \be e^{Ks_i s_j}=\cosh K+s_i s_j\sinh K \ee と書けることに注意すると, \be Z(K)=(\cosh K)^s\sum_{s_1}\cdots\sum_{s_N} \prod_{}(1+s_i s_j\tanh K) \ee を得る。$s$は,最近接スピンペアの数。 \subsection{一次元イジングモデルの高温展開} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% この形の使い勝手を見るため,前節でも考えた,一次元モデルについて まず試してみよう。周期境界条件,あるいはループ状のスピン列を考える。 一次元では,$s=N$。分配関数は \be Z_N=(\cosh K)^N\sum_{s_1}\cdots\sum_{s_N} \prod_{i}(1+s_i s_{i+1}u) \ee いま,$u\equiv\tanh K=\tanh\frac{J}{kT}$とおいた。 高温では$u<<1$なので,$u$の小さいべきから順に 考えていくことができる。 たとえば$N=3$のときに具体的に考えると, \be Z_3=(\cosh K)^3(8+8u^3) \ee となる(確かめよ)。(ループ上の場合,)一般に, $u^0$と$u^N$以外の$u$のべき乗の項は, 全てのスピンの向きの和をとれば0になる。ゆえに \be Z_N=(\cosh K)^N(2^N+2^Nu^N) =2^N(\cosh^N K+\sinh^N K) \ee を得た。むろん,$N\rightarrow\infty$では \be Z_N=(2\cosh K)^N \ee \subsection{二次元イジングモデルの高温展開} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 二次元イジングモデルの高温展開を考える。 \footnote{H. A. Kramers, G. H. Wannier}ここでは,スピンが 正方格子上に配置しているとする。\footnote{ 二次元モデルでは,規則的配列に限っても,三角格子など,いろいろな違った モデルも考えることができる。} 分配関数は,外場のないとき,次のように書ける。 \be Z(K)=(\cosh K)^s\sum_{s_1}\cdots\sum_{s_N} \prod_{}(1+s_i s_{j}u) \ee ここで,$u=\tanh K=\tanh\frac{J}{kT}$である。 積は最近接スピンペア$$についてとる。 $$のことをリンクと呼ぼう。 $u<<1$として,高温展開する。 \be Z(K)=(\cosh K)^s\sum\cdots\sum (1+u\sum_{}s_i s_{j}+u^2\sum_{}\sum_{ }s_is_js_ks_l +\cdots) \ee すべての$s_i$の配位の和をとったときにゼロにならないのは, 先の一次元の例でも見たように,注目した リンクがとじたループをつくっている ときである。ただ,今回はループの長さは任意であるし,ループが 2つ以上の場合もある。 適当な周期境界条件のもとで,分配関数は次のようになる。 \be Z(K)=2^N(\cosh K)^s(1+\sum_{n}\Omega_nu^n) \ee $\Omega_n$はリンク$n$個からなる閉じた多辺形の数。 具体的には, \be \frac{Z(K)}{2^N(\cosh K)^s}=1+Nu^4+2Nu^6+\frac{N(N-5)}{2}u^8+\cdots \ee \section{低温展開} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 低温では,ほとんどのスピンが同じ向きにそろっているのが 平衡状態と考えられる。\footnote{もちろん,既に解ったように, 二次元以上のイジングモデルを考える。} いま,仮にほとんどの$s_i$が$-1$をとり,その“海”の中で $+1$をとる領域が小島のようにあるとする。 このとき,小島の周囲には,$-1$と$+1$を結ぶリンク (逆スピンリンクと名付けよう)が$r$個できるとする。 すると \be \sum_{}s_is_j=(s-r)\times(+1)+r\times(-1)=s-2r \ee を得る。 分配関数は次のように書ける。 \be Z(K)=\sum\cdots\sum\prod_{}e^{Ks_i s_{j}} =2\left[e^{sK}+\sum_{r}\omega_re^{(s-2r)K}\right] \ee 全体にかかる2は,スピンを全部裏返しにしたものも考慮するためである。 低温では,$K\rightarrow\infty$だから,この表現 \be Z(K)=2e^{sK}\left[1+\sum_{r}\omega_re^{-2rK}\right] \ee を逆スピンリンクの数$r$の小さいところから考えていけばよい。 具体的に二次元イジングモデルで考えると 分配関数は, \be \frac{Z(K)}{2e^{sK}}=1+Ne^{-8K}+2Ne^{-16K}+\frac{N(N-5)}{2}e^{-16K} +\cdots \ee \section{二次元正方格子イジングモデルにおける双対性} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 二次元正方格子に対してその裏格子を次のように決める。 4つのスピンのある位置(サイトと呼ぶ)が作る単位四辺形の 中心にサイトを置く。その最近接サイトをリンクで結ぶ。 こうしてできたものを 元の格子に対して裏格子と呼ぶことにしよう。 元の格子のリンクと,裏格子のリンク \footnote{前節の逆スピンリンクに対応する。} は直交しているが, 一対一に対応している。今 正方格子については,裏格子のさらに裏格子は元の格子になることに 注意しよう。以下では,裏格子についての量は全て$*$をつけること にする。 まずわかるのは,$N^{*}=N=s/2=s^{*}/2$。 つぎに,今までの例からも大体推測がつくように, \be \Omega_n=\omega^*_n,~~~~~\omega_n=\Omega^*_n \ee 格子での分配関数を高温展開で書くと \be Z(K)=2^N(\cosh K)^s(1+\sum_{n}\Omega_n\tanh^n K) \ee 一方,裏格子での分配関数を低温展開で書くと \be Z^*(K^*)=2e^{sK^*}\left[1+\sum_{n}\omega^*_ne^{-2nK^*}\right] \ee 以上から,$\tanh K=e^{-2K^*}$としたときには, \bea Z(K)&=&2^N(\cosh K)^s(1+\sum_{n}\Omega_ne^{-2nK^*}) \nn &=&2^{N-1}(\cosh K)^se^{-sK^*}Z^*(K^*) \nn &=&2^{N-1-s/2}(\sinh 2K)^{s/2}Z^*(K^*) \eea さて,$\tanh K=e^{-2K^*}$を逆に解くと$\tanh K^*=e^{-2K}$となる (うつくしい!)。また \be \sinh 2K \sinh 2K^*=1, \ee \be \cosh 2K \tanh 2K^*=\cosh 2K^* \tanh 2K=1, \ee \be \sinh 2K=\sinh 2K\frac{1}{\cosh 2K \tanh 2K^*} =\frac{\tanh 2K}{\tanh 2K^*}=\frac{\cosh 2K}{\cosh 2K^*}. \ee これらの関係から,$N$が十分大きいとき, \be \frac{Z(K)}{2^{N/2}(\cosh 2K)^{s/2}}= \frac{Z^*(K^*)}{2^{N^*/2}(\cosh 2K^*)^{s^*/2}} \ee が成り立つ。\footnote{実は,こう書いたときは 正方格子でなくても成り立つ。三角格子と六角格子,など。} これが双対性(duality)の関係式である。 単なる正方格子では,裏格子も同じ正方格子だから, $Z=Z^*$。だから双対性は自己双対性(self-duality)となり, \be Z(K)=Z(K^*) \ee つまり,二つの異なる温度に対応する$K,K^*$で 分配関数は同じになる。 ある温度で 分配関数に何か変わったことが起きるとすれば, 一般には双対性から二つの温度で変わったことが起きることになる。 しかし,われわれは,いまスピンの配列がそろっている 秩序相と,ばらばらの乱雑相の二つぐらいしか 想像し得ない。したがって“変わったこと”は 一つの温度のところでのみ起こるとする。 すなわちそのとき$T=T_c$で \be K=K^* \ee あるいは$\sinh 2K=1$より \be K_c=\frac{J}{kT_c}=\frac{1}{2}\ln (\sqrt{2}+1)\approx 0.44069\dots \ee これは実は厳密な臨界温度と一致している。 \section{くりこみ変換} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% この節では,くりこみ変換\footnote{ K.~G.~Wilson 1971 (1982 Nobel prize), L.~Kadanoff 1960ごろ}を 用いて,イジングモデルの臨界点を求める。 \subsection{一次元イジングモデルとくりこみ変換} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% まず一次元イジングモデルを考える。 \bea Z_N(K)&=&\sum_{s_1=\pm 1}\cdots\sum_{s_N=\pm 1} \exp\left[K(s_1s_2+s_2s_3+\cdots+s_Ns_1)\right] \nn &=&\sum_{s_1=\pm 1}\cdots\sum_{s_N=\pm 1} \exp\left[K(s_1s_2+s_2s_3)\right]\times\exp\left[K(s_3s_4+s_4s_5)\right] \times\cdots \eea ここで次のように進む。まず,偶数番目のスピンについての和を 実行する。すると \bea Z_N(K)&=&\sum_{s_1}\sum_{s_3}\sum_{s_5}\cdots\sum \left\{\exp\left[K(s_1+s_3)\right]+\exp\left[-K(s_1+s_3)\right]\right\} \nn & &\times\left\{\exp\left[K(s_3+s_5)\right]+\exp\left[-K(s_3+s_5)\right]\right\} \times\cdots \eea これを元の形と比較したい。ここで \be e^{K(s_i+s_j)}+e^{-K(s_i+s_j)}=f(K)e^{K'(s_is_j)} \label{eq:KK} \ee という形に書けるだろうか。もし書ければ, \bea Z_N(K)&=&\sum_{s_1}\sum_{s_3}\sum_{s_5}\cdots\sum f(K)e^{K'(s_1s_3)}f(K)e^{K'(s_3s_5)}\times\cdots \nn &=&[f(K)]^{N/2} Z_{N/2}(K') \eea という関係が成立する。これをKadanoff変換という。 式(\ref{eq:KK})を解いてみよう。 $s_i=s_j=\pm 1$のとき,$e^{2K}+e^{-2K}=f(K)e^{K'}$, $s_i=-s_j=\pm 1$のとき,$2=f(K)e^{-K'}$だから \be e^{2K'}=\cosh 2K \Rightarrow K'=\frac{1}{2}\ln\cosh 2K \ee \be f(K)=2e^{K'}=2\sqrt{\cosh 2K} \ee となる解を得る。 $\ln Z_N(K)\equiv N g(K), \ln Z_{N/2}(K')\equiv (N/2) g(K')$ とおけば,\footnote{ $g$は示強変数となる。 } $N$によらない量で,すなわち 熱力学的極限を考えた上での,関係式を導くことができる。 それらは \be g(K')=2 g(K)-\ln [2\sqrt{\cosh 2K}] \ee または \be g(K)=\frac{1}{2}[g(K')+\ln 2+K'] \ee これらの変換で,ある温度の場合の$g$が知られていれば, つぎつぎと他の温度の$g$が求められる。 この変換には固定点がない。あるいは自明な固定点 $K=\infty$があるのみである。 このことは一次元イジングモデルで相転移がないこと に対応する。 実際,前に求めた厳密解 \be Z_N\approx (2\cosh K)^N \ee より \be g(K)=\ln (2\cosh K) \ee だから \be g(K)\rightarrow K~~~as~K\rightarrow\infty \ee となること等を調べれば解る。 逆に変換を使って,具体的に$g(K)$を計算するには, 例えば高温から初めて,任意の温度のときへと進んでいけばよい。 たとえば,$K'=0.01,g\approx\ln 2$などを 出発点にして計算すればよい。 外場のあるときも,同じようにアプローチできる。 厳密な磁化のふるまいを求めることもできる。\cite{Iw} \subsection{二次元イジングモデルとくりこみ変換(Kadanoff)} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 二次元正方格子イジングモデルでの分配関数を 次のように書く。 \bea & &Z(K)=\sum_{s_1}\cdots\sum_{s_N} \exp\left[Ks_5(s_1+s_2+s_3+s_4)\right] \nn & &\times\exp\left[Ks_6(s_2+s_3+s_7+s_8)\right]\times\cdots \nn & &=\sum_{残りのスピン} \left\{\exp\left[K(s_1+s_2+s_3+s_4)\right]+ \exp\left[-K(s_1+s_2+s_3+s_4)\right]\right\} \nn & &\times\left\{\exp\left[K(s_2+s_3+s_7+s_8)\right]+ \exp\left[-K(s_2+s_3+s_7+s_8)\right]\right\}\times\cdots \eea ここで二行目では$s_5,s_6,...$についてのスピンについての和を 実行した。 ここからは,前の一次元の場合ほどは簡単ではない。 単純にながめても,二次元では独立な変数が増えることがわかる。 ここでは \bea & &\exp\left[K(s_1+s_2+s_3+s_4)\right]+ \exp\left[-K(s_1+s_2+s_3+s_4)\right] \nn &=&f(K)\exp\left[ \frac{K_1}{2}(s_1s_2+s_2s_3+s_3s_4+s_4s_1)+ K_2(s_1s_3+s_2s_4)+K_3s_1s_2s_3s_4 \right] \eea を仮定する。 前と同様に,$s_1,...,s_4$に$\pm 1$を代入した式を 連立させて解くと,次のようになる。 \bea K_1&=&\frac{1}{4}\ln\cosh 4K \\ K_2&=&\frac{1}{8}\ln\cosh 4K \\ K_3&=&\frac{1}{8}\cosh 4K-\frac{1}{2}\ln\cosh 2K \\ f(K)&=&2\sqrt{\cosh 2K}(\cosh 4K)^{1/8} \eea したがって \bea & &Z_N(K) \nn & &=f(K)^{N/2}\sum_{のこり}\exp\left[ \frac{1}{2}K_1(s_1s_2+s_2s_3+s_3s_4+s_4s_1)+ K_2(s_1s_3+s_2s_4)+K_3s_1s_2s_3s_4 \right] \nn & &\times\exp\left[ \frac{1}{2}K_1(s_2s_3+s_3s_8+s_7s_8+s_7s_2)+ K_2(s_2s_8+s_7s_3)+K_3s_2s_7s_8s_3 \right]\times\cdots \nn & &=f(K)^{N/2}\sum_{のこり}\exp\left[ K_1\sum{}'s_is_j+K_2\sum{}''s_ls_m+K_3\sum{}'''s_ps_qs_rs_s \right] \nn & &~~~~~ \eea となる。 ここで$\sum'$は最近接スピン対についての和, $\sum''$は第二最近接スピン対についての和, $\sum'''$は最小四辺形上のスピンについての和,をあらわす。 くりこみ変換によって,より複雑な相互作用をもつ系へと変換された。 これ以上は,近似しないとなかなか進めない。\footnote{ 不可能とはいわないが} しかし$K_1\ne 0, K_2=K_3=0$では,一次元イジングモデルと同じで 自明となってしまう。 そこで$K_3=0$と近似しながらも$K_2$を考慮する。 ただし \be K_1\sum{}'s_is_j+K_2\sum{}''s_ls_m\approx K'(K_1,K_2) \sum{}'s_is_j \ee とeffectiveな結合常数で表されるとしよう。 このとき \be Z_N(K)=f(K)^{N/2}Z_{N/2}(K'(K_1,K_2)), \ee \be g(K)=\frac{1}{2}\ln f+\frac{1}{2}g(K') \ee もしくは \be g(K')=2 g(K)-\ln\left[2\sqrt{\cosh 2K}(\cosh 4K)^{1/8}\right] \ee である。 さて$K'$と$K_1,K_2$の関係はどう評価されるか。 全スピンがそろっているとすれば, \be K_1\sum{}'s_is_j=N K_1,~~~~~K_2\sum{}''s_ls_m=N K_2 \ee だから,$K'\approx K_1+K_2$と評価するのはもっともらしい。 とすれば,前出の式から \be K'=\frac{3}{8}\ln\cosh 4K . \ee この関係を用いれば,ある温度の分配関数から 変換によって別の温度の分配関数を(いまは近似であるが)求められる。 \footnote{$K=(1/4)\cosh^{-1} e^{8K'/3}$, $g(K)=(1/2)g(K')+ (1/2)\ln\left\{2 e^{K'/3}\left[ \cosh\left(\cosh^{-1}e^{8K'/3}\right) \right]^{1/2}\right\}$} しかし,こんどは,変換には自明でない固定点が存在する。\footnote{ 一次元のときは,固定点は$K=\infty$のところにあった。} それは$K=K_c$にあるとすれば \be K_c=\frac{3}{8}\ln\cosh 4K_c \ee をみたす。これを解いて$K_c=0.50698...$を得る。 Onsagerの厳密解の臨界点$K_c=0.44069...$とくらべると, 雑な近似の割には近い。 \section{展望} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 二次元で厳密に解けるモデルは, イジングモデルの他にもいろいろ知られている。 数学的にも興味深い。共形場の理論では,いろいろなクラス の臨界指数など求めることができ,それぞれに可解モデル が対応している。 イジングモデルのような簡単な,しかし奥の深いモデルは, いろいな場所で使われる。脳の記憶やニューラルネットのモデルなどには, もちろんそのままではないが,イジングに 類似のモデルが使われることがある。 \section{格子ゲージ理論(Lattice Gauge Theory)} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 時空座標を正方格子と考える。 $x$で表される時空点の$\mu$方向のリンク上に 次の変数を割り当てる。 \be U_{x,\mu}\approx\exp igaA_{\mu}(x) \ee ここで$A_{\mu}(x)$はゲージ場,$g$はゲージ結合常数, $a$は単位リンクの長さである。 系のエネルギーは,最小四辺形(プラケットという)についての 以下のような和で表されるとする。 \be -E= \tr U_{x,\mu}U_{x+\mu,\nu}U^{\dagger}_{x+\nu,\mu}U^{\dagger}_{x,\nu}+ \tr U_{x,\nu}U_{x+\nu,\mu}U^{\dagger}_{x+\mu,\nu}U^{\dagger}_{x,\mu} \ee 簡略化して, \be -E=\tr UUUU+tr(UUUU)^{\dagger} \ee とかく。 分配関数は \be Z=\int\prod_{y}\prod_{\rho}dU_{y,\rho}\exp(-\beta E) \ee である。 なんでこのようなモデルを考えるのか? $a$が小さい極限,連続極限を考えよう。 系のエネルギーは \bea -E& &\approx \tr\exp ig\oint A_{\rho}(x)dx^{\rho}+ \tr\exp -ig\oint A_{\rho}(x)dx^{\rho} \nn & &\approx \tr\exp iga^2F_{\mu\nu}(x)+ \tr\exp -iga^2F_{\mu\nu}(x) \nn & &\approx 2-g^2a^2\tr F_{\mu\nu}(x)F^{\mu\nu}(x) \eea これは物理的でない定数をのぞくと,ゲージ場の理論の アクションと一致する。ただし例えば $\beta=1/g^2$とする。 空間方向の長さ$R$,時間方向の長さ$T$ \footnote{時空はいまユークリッド化して考える。} の長方形の周をループ$C$とする。 このループについて次の量を考える。(Wilson loop) \be \langle \exp ig\oint_C A_{\mu}(x)dx^{\mu}\rangle \ee この量が, \be \exp (-RT\times const.) \ee の様な形をしているときには,(時間方向のlineを 2つの静止したクォークの世界線と同定したとき,) 二つのクォーク間の距離にエネルギーが比例していることを 表し,すなわちクォークの閉じ込めを支持する。 実は,ごく一般に,$\beta\rightarrow 0, g^2\rightarrow\infty$ でこのようになる。うえのかたちを「面積則」にしたがうという。 逆の状況では,指数関数の中身は,$C$の周囲の長さに比例する。 この場合,「perimeter law」に従うといい,通常のクーロン的 力が粒子間に働くことに対応する。 では,さらに簡単なモデルで考えよう。 $U$を$\pm 1$の値をとる$\sigma$ で置き換える。 するとWilson loopの期待値に対応するのは \be \langle\prod_C \sigma\rangle=\sum\prod\sigma\exp[ \beta\sum\sigma\sigma\sigma\sigma]/Z \ee 高温展開を考える。 使うのは次の恒等式である。 \be \exp\beta\sigma\sigma\sigma\sigma= \cosh\beta+\sigma\sigma\sigma\sigma\sinh\beta= \cosh\beta (1+\sigma\sigma\sigma\sigma\tanh\beta) \ee これを使うと, \be \langle\prod_C \sigma\rangle=\frac{ \sum\prod(1+\sigma\sigma\sigma\sigma\tanh\beta)\times\prod_C \sigma}{\sum\prod(1+\sigma\sigma\sigma\sigma\tanh\beta)} \ee と書ける。 $\sum\sigma=0,\sum\sigma^2=2$だから, $\tanh\beta$の一番低い次数は, 展開した$\sigma\sigma\sigma\sigma$がちょうど$C$で囲まれる 長方形を埋め尽くす場合から来る。 \footnote{次のオーダーは,周囲は$C$に固定した,一個出っ張りのあるような配位 (3次元以上)。つながっていないような多面体のようなものの寄与は, 分母分子でキャンセルする。} すなわち,長方形の内部のプラケットの数を$N_C$とすると, \bea \langle\prod_C \sigma\rangle& &=(\tanh\beta)^{N_C}+\cdots \nn & &\approx\exp [(\ln\tanh\beta)A]\cdots \eea と近似できるから,面積則(area law)をみたす。$(A=RT)$ 次に,逆の低温展開を考える。 ここでは,次元$d$は3以上とする。 \footnote{2次元では,以下収束しない。} まず,ほとんどの$\sigma$が$1$をとるとする。 そのうえで,$-1$をとる$\sigma$(flip)をひとつずつふやして, その寄与を見よう。 \begin{enumerate} \item $0$-flip. 寄与は$1$。 \item $1$-flip. まず,そのリンクを含む$2(d-1)$個のプラケットの寄与が 符号を変える。相対的には$4(d-1)\beta$の変化。数の重みは,分母では単純に リンクの数$N$。分子では,$C$上のリンク(数は$L$とする)がflipしたら, そこの部分は$-1$倍となる。だから重みは$(N-L)\times(+1)+L\times(-1)= N-2L$。 \be \langle\prod_C \sigma\rangle= \frac{1+(N-2L)e^{-4(d-1)\beta}+\cdots}{1+Ne^{-4(d-1)\beta}+\cdots} \ee \item $n$-flips. 分子への寄与 $\frac{1}{n!}(N-2L)^ne^{-4(d-1)\beta}$, 分母への寄与 $\frac{1}{n!}N^ne^{-4(d-1)\beta}$。だから結局 \be \langle\prod_C \sigma\rangle\approx \exp\left[-2e^{-4(d-1)\beta}L\right] \ee \end{enumerate} 結局,低温($\beta\rightarrow\infty$)では,perimeter lawに従うことが解る。 相転移を詳しく調べるには,イジングモデルのときと同じように, 高温と低温での相対性,くりこみ変換による考察,によって, いろいろなことが解る。 もっとも,簡単化されていないモデルでは,自由度も十分多く, 数値計算によって,連続極限と比較し得るようなハードな計算が行われている。 \bigskip この節は,筆者が院生時代に受けた, 風間先生の講義がベースにあります。それと 大川先生のノートも(使ってないけど)背後にベースとなっています。 -------------------------------------- \bigskip 参考文献は,ありすぎて困ります。 だれか,アドバイス下さい。 \begin{thebibliography}{99} \bibitem{To} 戸田盛和 熱現象30講 朝倉書店 4-254-13634-X ¥3400 \bibitem{川村} 川村光 統計物理 丸善 4-621-04379-X ¥3000 \bibitem{スタ} スタンリー 相転移と臨界現象 東京図書 4-489-00241-6 ¥3505 \bibitem{OgIc} 小倉淑・一柳正和訳 統計力学概説 オーム社 4-274-02183-1 ¥3301 \bibitem{Mu} 宗像豊哲 物理統計学 朝倉書店 4-254-13070-8 ¥2800 \bibitem{Cup} 尾中龍猛訳 熱・統計物理学シミュレーション 海文堂 4-303-55620-3 ¥4600 \bibitem{Iw} 岩波講座現代の物理学13 \bibitem{Ka} 加藤潔 マイコン(パソコン)による現代物理学入門 BASIC数学 1985 12月号 p.~56 \bibitem{GaNi} R.~J.~Gaylord and K.~Nishidate, Mathematica in Education WINTER 1994 p.~24 \bibitem{木原} 木原太郎,Cによる統計物理 東京大学出版会 4-13-062600-0 ¥2800 \bibitem{シュ} D.シュタウファー他,よくわかる計算機物理 シュプリンガー・フェアラーク東京 4-431-70573-2 ¥2718 \bibitem{早高} 早野龍五・高橋忠幸,計算物理 共立出版 4-320-03290-X ¥2987 \bibitem{Ko1} Kogut, Rev. Mod. Phys. \bibitem{Ko2} Kogut, Rev. Mod. Phys. \bibitem{Cr} M.~Creutz, "Phase Transitions", 1997, preprint. \bibitem{Sc} C.~Schmidhuber, "On water, steam and String theory", 1997, preprint. \bibitem{BuSh} A.~I.~Bugrij and V.~N.~Shadura, "Duality of the 2D Nonhomogeneous Ising Model on the Torus", 1997, preprint hep-th/9703037. \bibitem{Hol} C.~H\"olbling, "The two-dimensional Ising-model on Lattices with Trivial Homotopy Group", 1995, Diplomabeit. \end{thebibliography} \end{document} \begin{figure}[ht] \unitlength=1mm \begin{picture}(100,60)(50,30) \put(-35,0){\circle{1}} \put(-25,0){\circle{1}} \put(-15,0){\circle{1}} \put(-35,-2){\vector(0,1){4}} \put(-25,-2){\vector(0,1){4}} \put(-15,-2){\vector(0,1){4}} \put(-40,0){\line(1,0){50}} \end{picture} \caption{スピンの配置} \end{figure}