| ■多汗症治療ガイド>□治療編 | |
| ● 心身療法 | |
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◆ こころの病と多汗症
○ 多汗症は精神的な病気ではない
これまでは、手のひらの汗が精神性発汗(※)であることから、手掌多汗症は「精神的なもの」と考えられ、心理療法(自律訓練、薬物療法を含む)が行なわれることも少なくありませんでした。
人より緊張しやすい(もしくは緊張が激しい)から汗が出るのだから、その緊張しやすさを何とかしようというわけです。しかし、これにはいくらか誤解あったと言ってよいでしょう。多汗症の人が必ずしも、神経質であったり緊張しやすい性格であるとは限りません。緊張しやすい人もいれば、そうでない人もいます。それは多汗症でない一般の人と変わりません。ひどい上がり症だからといって、その人たちの手掌多汗症の確率が高いわけでもありません。
緊張しやすいから汗が出過ぎるのではなく、緊張に対して発汗を司る交感神経が敏感過ぎるから汗が出るのです。同程度の緊張でも、一般の人がまったく汗をかかないのにも関わらず、多汗症の人は多量の汗をかいてしまうのです。
自分の部屋にいて、ある程度リラックスしている状態でも、多汗症の人は手のひらから汗が出て来ます。特に、気温が高いと容易に汗をかきます。朝、目が覚めた途端に汗をかきはじめることもよくあります。目覚めた途端に汗をかくということは、人が活動するために、ごく普通に交感神経が働きはじめた(緊張しはじめた)だけでも、多汗症の人は人一倍の汗をかいてしまうということです。
人の活動に必要なレベルの緊張でも発汗するわけですから、それは心理療法の対象とはなりません。つまり、手掌多汗症は精神的な病気ではありません。手のひらの汗は精神性発汗ですが、だからといって手掌多汗症が精神的な病気であるということにはなりません。
(※発汗のタイプには、精神的刺激に反応する精神性発汗と、暑熱に反応する温熱性発汗があり、前者は手のひらと足の裏、後者は全身にみられます。両者の汗の出方の違いがはっきりと現れるのは睡眠時で、眠っている時に温熱性発汗(寝汗)はありますが、精神性発汗はありません)
○ 心身療法が有効なケースもある
多汗症が精神的な病気ではないことを説明しましたが、心身療法がどんな人に対してもまったく無駄というわけではありません。汗が出るかもしれないという不安感の強い人は、その不安感が引き金となって余計に汗をかいてしまいます。しかも、実際に汗をかいたという事実によって不安感が強化され、さらに汗をかきやすくなるという悪循環に陥っています。
このような場合は、汗に対する必要以上の不安を取り除くことで、症状が軽くなる場合もあります。なかには多汗が原因となって、一種のこころの病に罹ってしまった人もいます。
人前に出ることが出来なくなり、学校に行けなくなったり、ひきこもってしまったりする人もいます。
そのような人達には何よりも、じっくり話を聞いてくれて、しっかりと受け止めてくれる人が必要です。なぜなら、そのような人達は今まで誰にも相談が出来ず、たとえ話をしても真剣に取り合ってもらえす、一人で悩んでいる場合が多いからです。
話を聞いてもらえるだけでも、心が軽くなっていくものです。だから話相手は、必ずしも専門家である必要はありません。そして少しずつ心を外へと向けて行けばよいのです。このように心理的・内面的な負担によって、多汗症の症状やその他の健康に影響が出ているような場合には、心身療法が多汗症状や心理的負担の軽減の手助けとなり得ます。もちろん、この場合でも、医師が多汗症について理解があるに越したことはありません。
だいたい次のような人には、心身療法が意味を持って来るでしょう。
このような精神的なストレスが症状を悪化させているような場合には、下にあげるような治療法によって気持ちが楽に持てるようになると、症状も軽くなっていく可能性があります。
- 多汗症であることに劣等感をもっている。
- 人の視線が気になってしかたがない。
- 汗そのものに嫌悪感をもっている。
- 汗が出ないかと不安でしかたがない。
(※なお、多汗症自体を治療するのではなく、あくまでも余計にかいていた汗をなくして、その人本来のレベルの多汗症に戻すということです。もちろん、それ以上の効果もあるかもしれません)
◆ 心理療法
多汗症で特別な心理療法を受けたという人の話はあまり聞いたことがありません。主として話を聞くという程度のカウンセリングで終わっているようです。上にあげたように、問題となっている点がはっきりしているため、無意識に重点を置くと考えられる各種カウンセリング療法の対象とはなりにくいのかもしれません。多汗症の場合も、汗に対するマイナスの意識を変えて行こうとすることに治療的意義はありますが、「発汗」という自律神経の働きによる具体的な症状が存在するため、自律訓練法が試みられる場合が多いようです。
◆ 自律訓練法
自律訓練法の詳しい説明は、専門書や専門サイトをご覧ください。
素人的な考えですが、おそらくリラックスしたり自律神経の働きを整えるための方法だと思われます。発汗は自律神経の働きですから、過度の緊張を抑えて発汗を軽減させようということなのでしょう。
睡眠中は副交感神経が活発になり、精神性発汗(手のひら、足の裏の汗)は消失します。リラックスしている時は副交感神経が働いていますから、自律訓練法によって身体をリラックスさせる方法を覚え、精神性発汗を軽減させようということです。薬物療法を同時に行なって、習得しやすくしたり、効果を高めたりもされているようです。
自律神経調整剤のグランダキシンを併用して、ある程度の効果が認められたという報告もあります。ひどい多汗症や生来の多汗症には、あまり効果を期待できませんが、汗をかくことに過度に意識が向かって、余計に汗をかいたり、物事が手につかなくなったりする人は、気持ちを楽にするためのリラックス法として身につけておいてもよいでしょう。
◆ 薬物療法(精神安定剤)
多汗症の患者には、精神安定剤(抗不安薬)が処方されることも少なくありません。皮膚科から心療内科へまわされることもあります。精神安定剤はあくまでも緊張の緩和が目的で、薬に直接、制汗作用があるわけではありません。
ただ、副交感神経を働かせる(リラックスさせる)ことにより、二次的に精神性発汗の抑制がみとめられることもあります。二次的作用という点では、副作用に眠気のある薬(頭痛薬、風邪薬、酔い止め薬など)にもいくらか同様の効果があるかもしれません。薬に関する詳細は、専門サイトをご覧ください。
実際に精神安定剤を処方された方の体験談は、伝言板の過去ログにあたってください。
○ 各種の精神安定剤
グランダキシン [TIP]
- ◇メーカー
- 持田製薬(発売)
- ◇薬効分類名
- 催眠鎮静剤・抗不安剤 [TIP]
- 自律神経剤 [TIP]
- ◇系統
- ベンゾジアゼピン系
- ◇成分(一般名)
- トフィソパム [TIP]
- (説明文書)ベンゾジアゼピン系 [TIP]
- (分類)自律神経調整剤
- ◇その他のトフィソパム製剤
- エマンダキシン
- クラソパン
- グランパム
- コバンダキシン
- ダイラックス
- トフィール ほか
- ◇特長
- 抗不安薬としても用いられますが、自律神経調整作用が強いと言われており、多汗症に処方されることがあります。
メビオジン [TIP]
- ◇メーカー
- ◇薬効分類名
- 精神神経用剤 [TIP]
- ◇成分(一般名)
- 塩酸チオリダジン [TIP]
- (説明文書)フェノチアジン系薬 [TIP]
- (分類)
- ◇その他の塩酸チオリダジン製剤
- メレリル
- ◇専門誌の報告より。
- 「情動性多汗症に対するチオリダジンの著効例」鈴木二郎ほか『皮膚科の臨床』38(9), P1421-1423, 1996
- 「神経遮断薬(抗精神病薬)の中で、精神安定作用があり、かつ抗コリン作用が強く、しかもパーキンソン作用その他の副作用の少ない薬物」
- 1回5mg:1日2回朝昼服用。休日は服用しない。
=「順調に推移し、眠気、動悸、便秘なども特にみられない。」- 1回10mg:1日2回朝昼服用。休日は服用しない。
=「その後猛烈に多忙になって再び発汗が増加したので、本人の希望で1日20mgに増量して好結果を得、眠気もないという。」◆ 催眠療法
催眠療法は、心理療法のひとつです。時々伝言板で話題になるので、これだけ別に項目を立てました。
「汗が出ない」という暗示をかけることによって、汗を止めることは出来ないか?ということでしたら、残念ながら催眠療法で汗を止めることは出来ません。暗示というのは、意識に対して行なうものです。
例えば、催眠状態で、まずくて嫌いな食べ物に対して、おいしくて好物だという暗示を与えます。すると、覚醒後しばらくの間、嫌いだったはずの食べ物がおいしく食べられます。このような暗示を後催眠暗示と呼びます。より実用的・治療的な例では、タバコがまずくて吸えないという暗示を与えることによって、禁煙の手助けをするといったことも試みられています。しかし、発汗は自律神経の働きですから、暗示によってコントロールすることは出来ません。もともと意識でコントロール出来ないものに対して、暗示をかけることは出来ないのです。
ただし、汗に対する過敏な意識や過剰なマイナス・イメージを、暗示によって軽くすることは出来ると思います。その結果、汗の量も減っていくかもしれません。
つまり、他の心身療法と同じく、汗に対する不安や緊張を軽くすることによって悪循環を断ち切り、二次的に発汗を軽減することは可能かもしれません。