2000年11月29日
弁護士 新 美 隆
1 本日の和解成立を見届けて、11名の控訴人(原告)の代理人として、また中国紅十字会の代理人として、コメントをします。
本日の和解は、内外を問わず多くの人々が待ち望んでいたもので、歴史的に見ても文字通り画期的なものです。昨年9月10日の東京高裁17民事部の職権和解勧告からすでに1年余を経過しました。この期間中に孟繁武、王敏のニ人の原告を失い、一審中に亡くなった李克金を含め3名の方々が、本日の結末を見届けることができなかったことは、誠に残念です。
この1年余の和解協議においては、正に第1歩を踏み出す者のみが味合わなければならな
い「生みの苦しみ」がありました。
本日の和解は、日中間の戦争が残した問題がなお解決しなければならないものであると同時に、日中友好という観点から解決できることを示したものです。裁判所が述べられたように20世紀終焉の時にあたって、本日の和解は、来る世紀への日中友好の一層の進展に向けて、ひとつの輝く架け橋になるものと信じています。
支援・支持していただいた内外のみなさんに心から感謝申し上げます。
本件和解の意義を認めて、50年来の懸案という頚木を絶つ決断をされた鹿島建設の役員の皆様に敬意を表します。
そして、花岡事件解決の歴史的意義を深く認識し、固い信念と決意をもって因難至極の和解協議を忍耐強く指揮した東京高裁17民事部の新村裁判長をはじめとする三名の裁判官諸氏に対して心から感謝申し上げます。日本司法の歴史認識と度量を十分に示し司法の役割を果たされたことに深甚なる敬意を表します。
2 本日の和解に至る花岡事件の経過については、花岡事件年表のとおりです。(年表省略)
3 和解条項についてのコメント
第1項1990年7月5日「共同発表」(資料参照)は、戦後補償を求める動きの嚆矢ともいうべきもので、当時、各方面に大きな衝撃を与えたものです。
この共同発表は、1989年12月22日付の公開書簡での耿諄ら生存者らの要求を受けたもので、周恩来総理の「過去のことを忘れず、将来の戒めとする」との高い理念に基づいています。
但し書で、法的責任について触れていますが、これは、鹿島建設側が当初、法的責任を認めた趣旨のものではないことの確認を求めて来たのに対し、これが拒否された上で表現されたものであって、法的責任のないことを認めたものではありません。
これまでの日本の戦後補償に関する和解例では、法的責任はおろか何らかの責任を表明した例はなく、強制労働に関するドイツの先例や基金においても、法的責任のないことを確認することが前提となっていることからしても、この条項の但し書きは、共同発表の訴訟上の和解での再確認とともに画期的なものと言えます
第2項 今回の和解の最大の特色は、原告11名の解決ではなく、全体的解決をはかろうとする点にあります。この法的構成として、信託法理を適用し、かつ中国人強制連行問題に歴史的にも関わり国際人道活動に顕著な実績にある中国紅十字会が利害開係人として和解に参加し、信託の受託者となりました。
信託金額については、裁判所の所感にもあるようにこれまでの諸外国の事例も考慮した上で裁判所が総合的に判斬して勧告されたものです。この事情の中には、986人の被害者については、すでに55年を経過していることから調査の実効性の不確定さも含まれているものと理解しています。
信託金額については、当初、原告側においても強い戸惑いがあったことは事実ですが、裁判所の強い信念と決意を理解し、和解解決の歴史的意義を評価して同意したものです(なお、本件訴訟での原告ら11名の請求総額は、弁護士費用を除けば、合計5,500万円です。)。
第4項 本件信託金は、「花岡平和友好基金」として、運営委員会によって運用管理されます。運営委員会の委員は9名以下を定員として、控訴人(原告)らが、選任しますが、内1名は、鹿島建設が希望するときはいつでも委員を派遣することができるようになっています。本日以降、すみやかに運営委員の選出が控訴人(原告)団によって行われる運びになっています。運営委員会が定める一定の金額が、被害者に支払われますが基金独自の事業にも使用されます。
第5項 全体解決となることを保証する条項です.
なお、鹿島建設が、1990年7月5日の共同発表という合意文書に表された率直な事実認識と深い反省にもかかわらず、訴訟になって以降、和解成立までに一部(純粋な法的主張ではなく)この共同発表の精神に反するかの如き主張を繰り返したことが、中国人被害者の強い反発と不信をかったことを原告側の率直な気持ちとして付言したいと思います。
長年の敵対関係を友好関係に転換するためには大きな勇気が必要であることは言うまでもありません。本日の和解を契機にして、鹿島建設において歴史事実を直視し、日中友好の大道を堂々と歩まれんことを衷心より期待したいと思います。
以上