泡坂妻夫の怖い話」(泡坂妻夫) 98.08.10

しばらくこのコーナーの更新もサボってしまっていたm(__)mが、それを反省し、今週、来週、再来週と連続して更新することにする。と言うのも、最近続けて3冊、面白いと思う本に出会ったからだ。

まず始めに取り上げるのは、「泡坂妻夫の怖い話」(泡坂妻夫)(新潮文庫)である。この泡坂さんは、以前に別の本を読んだので知っていた。それは「生者と死者」である。こちらの方は、話の中身としてはいま少しと思うところもあったが、そもそもその作りそのものがすごい。袋とじになってあり、それを開けると始めの話とは全く違う話が現れるという、他に類を見ないものであった。こういう仕掛けのためなら少々ストーリーに無理と思えるような部分があったとしても、納得してしまう、そういう本であった。

今回その泡坂さんの「泡坂妻夫の怖い話」を買ったのは、その裏表紙の帯に、例の「生者と死者」の紹介がなされていたからであった。そう言えば前にこの人のこの本を読んだことがあったなぁ、と思って本を取り上げ、そして表表紙の帯を見ると、「泡坂トリックの集大成!艶っぽい話から日常の恐怖まで小説マジックを効かせた全31篇」と書かれてある。この紹介のうち、「日常の恐怖」という言葉と「全31篇」という言葉とが僕の心をとらえた。ミステリーやサイコホラーを好む僕は、「日常の恐怖」という言葉に弱い。さらに長編より短編の方を好む僕には、「全31篇」というのは大変な魅力であった。というわけで、この「泡坂妻夫の怖い話」を買うことにしたのである。

さて、読んでの感想であるが、さすがに31篇もあると様々な種類の話が入っている。しかし全篇に共通して言えるのは、最後には、ゾクッとさせられる、あるいはニヤリとさせられる、そういうトリック(あるいは落ち)が含まれているということである。そもそもミステリーやサイコホラーも、トリックがその根幹にあるものであり、そうしたトリックのうち、ゾクッとさせられるものがミステリーやサイコホラーであり、ニヤリとさせられるものがホラーでないものである。「怖い話」と本の題にあったので、全篇がホラー系かと思ったが、そういうわけではない。むしろ「トリック話」とした方が、全篇の性格を正確にまとめ表したことになるだろう。

全篇について感想を書き上げていくときりがないので、特に気に入った話をいくつか取り上げると、「解坂中腹」「影人形」「妖香」などがそうである。

「解坂中腹」は、開発された田舎の土地に崇りとも思える事故が起こる話である。崇りや幽霊を信じない主人公と、それらを信じるその友達とが、その真偽を確かめるために、事故のあった場所へ赴く。そしてそこで見たものは・・・。主人公はそれらを科学的に解明したわけであるが、主人公の態度が崇りや幽霊を信じない科学的なものであればあるほど、読んでいるこちらとしてはそれとは反対の方に引き摺られて行く。そこまで偶然が重なるものであろうか、と。

「影人形」は、丹精込めて作られた剥製が意思を持つという話である。その結末はドッペルゲンガーの話をも思い起こさせる。そういう意味ではありきたりとも言える展開だが、やはり剥製やマネキンなどが出て来る話は、読んでいて怖いものである。無表情なその顔と、その下で紡がれている邪悪な意思とのギャップが、恐怖を生むのだろうか。

「妖香」は、ある山村にある沢で、連続して転落事故が起こる。犠牲者は申し合わせたように手に長いもの(杖など)を持っていた。犠牲者が出た時偶然この村に来ていた旅の僧は、それを弔うことになる。村人は「なにやら魔性の者に出会ったようだ」という。1年後、同じ村を通りかかったその旅の僧は・・・。魔性の者に出会ったわけではない、しかし、杖を握り締めている自分に気づいた時、その連続転落事故の真相に気づくが、その時には・・・。何とも皮肉なものである。あるいはそれは魔性の者だったのかも知れない。その旅の僧の背景を考えるとそうとも思える。全体として妖しい雰囲気の漂う、そんな話である。

さて、この本は解説も興味深い。筆者は若い頃はカード奇術に打ち込んできたが、最近はコイン奇術に凝っているという、それは、単純な道具立てにもかかわらず、いまだに新しい技術が生まれている、まさに「奇術の極致」だからだ、と。そして解説者は、小説に当てはめてみるなら、ショート・ショートこそ「奇術の極致」と呼ばれる境地に近いものだ、と書いている。短いながらも、そこには人をアッと言わせる、そういうものが含まれている。いや、含まれていると言うより、出来るだけ短い構成で人をアッと言わせている、と言った方が正確だろう。それだけ濃度が濃く、無駄がない。僕が短編を好むのも、それら点を好んでのことである。その意味でも、300ページちょっとのうちに31篇も含まれており、そしてそのどれもに人をアッと言わせるトリックが含まれている、そんなこの本に僕は非常に満足である。

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