表面化学・用語集

表面化学についての用語集です。とにかくわかりやすく説明することに気を配りました。
まだまだしょぼいですが、長い目で見てやって下さい。






・アニール
・Woodの表記
・オージェ電子
・化学吸着
・キンク
・光電子
・再構成表面
・仕事関数
・ステップ
・ダングリングボンド
・テラス
・バルク
・物理吸着
・ミラー指数
・ラングミュア/L

ラングミュア/L(Langmuir unit)

 表面にガスを吸着させる時の暴露量(ドーズ量)を示す単位で、1×10-6 Torrのガス雰囲気に基板を1秒間曝した時を1L(=Torr・s)と言います。概ね、1ML(単分子層)程度を形成する量だと言われておりますが、吸着サイトは吸着分子によって異なりますし、Sticking coefficientも異なりますので、あくまで窒素を常温で曝した時の目安です。ちなみに、私の感覚では、解離吸着してもしなくても、大抵2Lで1ML位になる事が多いかな。


ミラー指数(Miller index)

 結晶の格子面を表すもので、(100)とか(110)みたいに、(hkl)で表します。hklはそれぞれ単位結晶格子のXYZ軸に対応し、その値は単位結晶格子の長さxyzの整数倍の逆数・・・x/h・y/k・z/lを示します(上にバー[-]が付いている時はマイナスを示します(1(-) 0 0)→(-1 0 0))。XYZ軸上のx/h・y/k・z/lの位置を通る平面で結晶を切り出した時の断面がミラー指数(hkl)の示す面となります。同じ面を示すものをまとめて言う時は{hkl}、晶帯軸は[hkl]、同じ晶帯軸を意味する物をまとめて言う時は<hkl>で表します。


たまに、(0001)みたいに4桁のものを見掛けますよね。あれはhcp(六方最密格子)です。
言葉で表しにくいので、図で示しました。

xy平面状に、120度置きに、a1、a2、a3の軸を取り、z軸方向にcの軸を取ります。(それぞれの軸の基本ベクトルの長さは格子の境界を1とします)
上述した方法と全く同じに(a1 a2 a3 c)で、六方晶の面を表します。


仕事関数(work function)

 金属、半導体表面に紫外線やX線を当てると、電子が飛び出してきます。
 これを光電効果と呼びますが、この光電効果は、紫外線やX線が物質によって決まるある一定以上のエネルギー(金属なら2〜6 eV程度)を持っていないと起こりません。
 また、金属、半導体は加熱すると、物質によって決まるある一定以上の温度で急激に電子(熱電子と言う)が放出されます。何故でしょうか?
 これは、固体内に囚われている電子はある一定以上のエネルギーを加えると、囚われていた壁を乗り越えて自由に飛び出していける様になるからです。
 この壁を仕事関数と呼びます。
 絶縁体でも光電効果や熱電子放出は起こりますが、金属、半導体に比べて高い仕事関数をを持つので、より高いエネルギーが必要になります。
 このような物性の違いによる仕事関数の違いを理解するには、固体物理のバンド理論を読むと良いです。
熱電子


化学吸着(chemisorption)

 吸着した分子(原子)と表面の間で電子の交換が行われ、分子と表面の間に強い結合(共有結合、イオン結合、金属結合、配位結合)が生じた物を化学吸着と言います。
 その結果、解離して吸着した物は解離吸着と呼びます。
 通常、多層吸着は起こらず、一層のみで、結合エネルギーは0.42〜4.2eV(40〜400kJ/mol)程度です。


物理吸着(physisorption)

 ファンデルワールス力等によって弱く表面に束縛されている吸着状態を物理吸着と言います。
 電荷の交換などは行われず、可逆的に脱離し、解離など伴いません。
 また、低温では簡単に多層吸着を引き起こします。
 結合エネルギーの多くは0.25eV(24kJ/mol)程度と弱いです。
 物理吸着は化学吸着の先駆状態とも考えられます。その場合、物理吸着している状態をprecursorと呼ぶ事があります。


ステップ(step)

 結晶の表面は完全な平坦ではなく、所々、単原子層の段になっています。この段をステップと呼んでいます。
 段は、低指数面方位であれば少なくなりますが、面方位と表面が完全に一致していないから現れるとも言えますし、完全に平坦な表面は無いからとも言えますが、必ずあるものです。
 また、このステップは表面欠陥の一つとされ、吸着分子が集まりやすい場所であるので、触媒反応や表面反応を考える上で重要です。



テラス(terrace)

 結晶の表面でステップに挟まれた、比較的平坦な部分を言います。
 多くの吸着分子は先ずここに降り立ち、表面を移動(マイグレート)し、安定した所に留まります。


キンク(kink)

 結晶の表面で、ステップの部分をよく観ると、直線ではなく段になっている所があります。
 これをキンクといいます。
 吸着分子が表面上で一番、落ち着きやすい所です。従って、結晶成長や、表面反応でも重要な部分です。


ダングリングボンド(dangling bond)

 半導体では、劈開してバルクの構造がいきなり表面に飛び出してしまうと、原子同士の結合手が解裂して、結合相手のいない電子が存在してしまう事になります。これを不対電子と呼び、この電子が存在する軌道(大抵はsp3混成軌道)の事をダングリングボンドと言います。
 ダングリングボンドは不安定な存在で直ぐに何かと結合して安定しようとする為、非常に活性な反応場所となります。ダングリングボンド同士、お互いの不安定な電子を安定化しようとして、角度を変えて結合しあい、最終的にエネルギーが安定化した表面構造を、再構成表面と呼び、バルクと異なる周期構造を示します。


Woodの表記(Wood's notation)

 表面再構成により、バルクと異なる周期構造を得た表面は、ミラー指数だけでは表記できません。そこで、Woodが考案した表面構造の表記方法使って、再構成表面を表します。また、表面に吸着した原子の周期構造を示す場合にも用いられます。
 表面の構造を示す時には必ず元の構造を基本に、その違いを表すような記号を付け加える様にします。
 例えば、
 GaAs(100) c(8×2)
 
 →化合物半導体GaAsのミラー指数で(100)の面方位を持つ表面において、再構成表面の周期構造が、下地の結晶格子の8×2個分を一つの周期構造として、それが左右上下に無限に繰り返されている表面を示しています。cの記号は、centeredの意味で、面心格子を意味しています(つまり縦横半格子ずつずらしても周期性が失われませんよって事です)。それとは別にpがつく場合もあります。これは、primitiveつまり基本格子を意味しますが、普通はpを省略します。ついでに、c(8×2)は"centered 8 by 2"と読みます。ちなみに、(8×2)はGaが最表層に露出した表面(Ga-rich surface)を意味します。(2×8)はAsが最表層に露出した表面(As-rich surface)を意味しますので、間違えないようにしましょう。

 Pt(100) (√2×2√2) R45°-O
 →-Oは吸着している酸素(O)が表面で周期構造を成している事を表します。Rが付いている場合は、基本となるPt(100)の結晶格子に対して45°ずれて、表面格子があることを意味します。


再構成表面(surface reconstruction)

 バルク(結晶内部)では安定な構造も、非対称である表面に曝されると、エネルギー的に不安定な状態に陥ってしまいます(片側に結合すべき原子が居ないからです)。このような状態で出来るだけ安定化するには、バルクの構造と異なった周期性を持つ表面構造を形成する必要が有ります。特に、半導体では、ダングリングボンドが表面を不安定化しているので、これらが出来るだけ少なくなるように結合角度を変化させ、お互いに結合しあうなどして安定化します、これを表面再構成と呼び、出来たバルクと異なる周期構造を、再構成表面と呼びます。どの程度安定化できるかは、与えられるエネルギーに依存するので、基板温度をどの程度上げたかによって、形成される再構成表面の構造は異なります。再構成表面を記述するには、Woodの表記がよく用いられます。


バルク(bulk)

 ワゴンセールに出されている簡易包装された安物のハードディスクではありません。バルクとは結晶内部を意味します。これに対する言葉は表面(surface)又は界面です。表面とバルクは物理的にも化学的にも異なる性質を持つ為、同じ結晶でもこのように分けて考える訳です。


オージェ電子(auger electron)

 X線や電子線を物質に照射すると、照射された物質を構成する原子から、内殻電子が放出されます。(光電効果の一つ)すると、内殻軌道に正孔と呼ばれる穴が開きます。要するに飛ばされた電子のいた軌道が一個電子不足に陥るわけです。この状態はエネルギー的に不安定ですから、何とかこの穴を埋めようとして、外側に存在する電子がこの穴に落ちてきます。この時、より安定な軌道に電子が移動するため、余剰エネルギーを放出する為に、別の電子がその余剰エネルギーを運動エネルギーとして表面から脱離します。こうやって出てきた電子がオージェ電子です。オージェ電子は光電子と異なり、入射電子線(X線)のエネルギーに依存しません。物質に特有の運動エネルギーを持っており、そのまま元素分析に使えます。AESはオージェ電子を利用して元素分析する分析手法です。(XPSでも可)内殻1個、外殻二個の電子が介在しますからLi以下の原子番号の元素はオージェ電子を出しません。
auger電子の放出


光電子(photoelectron)

 紫外線やそれよりも波長の短い電磁波(X線等)を金属に照射すると、金属表面から電子が放出されてきます。これは、照射された金属を構成する原子から、光子によって励起された電子が金属の束縛を振り払って放出される現象である事を、アインシュタインが光量子説で説明しました。この電子を光電子と呼びます。光を強くしても、この光電子の運動エネルギーは変化しません、電子の数が増えるだけです。一方、光のエネルギーを強くすると、光電子のエネルギーが増加します。これらは、光子と電子の衝突が一対一で起こる事を示しています。この光電子は、入射する光のエネルギーがある程度以上ないと放出されません。そのため紫外線等の比較的エネルギーの高い光でしか起き難いのですが、このエネルギー閾値は金属毎に異なり、「仕事関数」と呼ばれています。また、紫外線ではせいぜい価電子帯の電子を放出するに留まりますが、もっと内殻の電子もX線を用いる事で光電効果で放出する事が出来ます。
光電子の放出


アニール(anneal)

 正確にはアニーリングですが、”焼き鈍し”の事です。例えばガラスの場合、バーナーで炙って加工すると、加工した時の力に対応して元に戻ろうとする力、つまり応力が掛かった状態で冷えて硬くなるので、その応力が残ってしまいます。これを一般に歪みと読びますが、この歪は非常に危険で、下手に衝撃や傷を与えると、そこから簡単にガラスが破壊されてしまいます。(掛け方によっては逆に強くなったりもします。例えば耐熱ガラスや強化ガラス)従って、ガラス屋さんは、加工した後その歪みを取る為に軟化しない程度に温度を上げて、構造が変化して応力が緩和されるのを待ちます。これをアニール(アニーリング)と呼びます。表面の分野では、スパッタリング等によって表面が荒らされた時に、再構成表面を形成する為に、融点以下の温度で加熱し、不純物を脱離させたり、バルクへ拡散させたりしつつ、表面の構造が均質で安定な状態にする事を言います。



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