

表面とは何でしょうか?
物に触った時、手に触れるのは必ず表面です。いきなり表面を突き通して物体の内部に手が届く事は有りません。触ってる手の表面が物体の表面に触れているだけです。もし表面同士が干渉しなかったら、難しく言うと「相互作用」しなかったら、我々の手は幽霊の様に物体の内部に侵入してしまい、触れる事はおろか立っている事さえ出来なくなります。このように我々の生活その物は、表面と表面の接触によって成り立っています。
従って、様々な場面でこの表面が物事の本質を捉える重要な要因となっています。
例えば・・・、
| 車のコーティング | 表面の機械的硬さや弾性よって、石が当たった時の傷の付き易さや決まります。表面の材質や構造・化学的な修飾により、汚れの取れやすさや撥水性が決まっています |
| 触媒 | 排気ガスの無害化や、光を照射する事によって汚れを分解するコーティング、そのほか様々な物質やガスの精製・合成には、触媒表面で起こる化学反応が、利用されています |
| 防食 | 金属の酸化反応、ポリマーの変色や退色・着色等は、物質表面とガス、水、光、酸・アルカリ等との反応が原因しています |
このように例を挙げれば限が無いのですが、表面で起こる反応が、私達の生活に必要不可欠な様々な物と関係しており、その現象を科学的に捉える事がどれくらい重要な事かはお分かり頂ける事かと思います。
さて、その様な表面化学反応を捉える分析手法として表面分析が存在します。特に、科学的、産業的需要の高い分析として、今日まで非常に高い技術的進歩を遂げてきました。
このような背景には、上に述べた技術開発的・科学的需要があった事は確かですが、もう一つ重要な需要として、今日作られる様々な工業製品の品質管理が非常にシビアになり、目で見えないようなちょっとした埃による汚染や異物の侵入で、製品の寿命や動作が品質基準を満たさなくなってきた事も関係しています。
例えば半導体生産ラインで発生した不良品の原因を調べる為には、製品や製造設備に使用されてる素材が何かに汚染されていないかや、どこが汚染されているのかを調べる必要が有ります。
汚染物質や異物を発見してもそれが何なのか調べる為には、分析をしなくてはなりません。今日の表面分析装置は、表面を何万倍にも拡大して、その一部分のみに存在する物質の元素や濃度を測定する事が出来ます。
他の溶かして分析するような湿式の化学分析では、分析出来ないくらい、表面の数原子層にある、ほんの少しの汚染も、表面分析なら見つける事が可能です。
この様な需要・供給が今日の科学技術の進歩と表面分析の発展を支えあってきました。
此処では、表面化学を行う上での表面分析の利用について詳しく解説していきたいと思います。
これまで述べてきたように、表面分析は表面化学を行う上では、切っても切れないものです。
表面で何が起こっているか?調べようと思ったら、表面のミクロな状態を見えるようにしなくてはいけませんね。
表面を見ると言っても、色々な観察の仕方があります。例えば、顕微鏡で覗く、軽い刺激を与えて反応を見る等です。大きく分けると次のように分類できます。
| @表面の形を見る(モホロジー) | 表面の形状を直接的に、顕微鏡を使って観察する。 |
| A表面を刺激して表面を見る | 表面に光、熱等の刺激を与えて、表面から出てくる光等をスペクトルを用いて観察する。(基本的には非破壊) |
| B表面を刺激して飛び出してきた分子を見る | 表面に光、熱等の刺激を与えて、表面から出てくる分子をスペクトルを用いて観察する。(基本的に表面を破壊する) |
@の表面の形を見る方法は、基本的に顕微鏡と呼ばれています。我々に身近な物は光学顕微鏡です。これで頑張れば、実体顕微鏡等を使って数百倍までの拡大像を見る事が出来ますが、表面の反応が起こる微細な表面形状を探る事は絶望的です。解像度が上がらない理由は、光を使っている為でその分解能は波長によって制限されているからです。従って、電子を使います。
電子を使った場合、分解能は格段に向上します。電子をビーム状にして表面に走査し、そこから飛び出した電子の強度を測定すると、表面の凹凸を非常に高い諧調で観測する事が出来ます。これを走査型電子顕微鏡:SEMと言います。この方法で、30万倍位まで、空間分解能で言うと数十nm程度まで見る事が出来る様になります。
更に、走査しない電子を薄くしたサンプルに照射して透過した電子を拡大して記録できるようにした顕微鏡を透過型電子顕微鏡:TEMと言います。一般的に電子顕微鏡と言うと普通はこのTEMの事を意味します。透過する電子を使っていますので、表面を見るための顕微鏡と言うよりは断面又は界面を見る顕微鏡と言えます。分解能はÅオーダ(10-10 m)と非常に高く、直接的にナノスペースを観察できる手法です。断面の原子配列や欠陥を見る事が出来ます。薄くしないと観察できない為、サンプルの作成には非常に時間が掛かります。
更に、プローブと言う針のようなものを使って表面の凹凸を走査しながら調べる方法もあります。これを総称して走査プローブ顕微鏡:SPMと言います。SPMには代表的なものに、トンネル電流という物質が非常に近づいた時にしか発生しない特殊な電子を測定して、表面の凹凸を測定する走査トンネル電子顕微鏡:STMと、プローブが表面に近づいた時に起こる引力と斥力を測定して表面の凹凸を観測する原子間力顕微鏡:AFMが有ります。これらの分解能はÅ以下、0.5Å程度まで行くもののあります。
Aの表面を刺激して表面を見る方法は、表面の配列、元素濃度、表面の結合等、他にも様々な物性を得る事が出来ます。基本的に非破壊な分析方法で、表面に電子・X線・光等を入射して出てくる電子・X線・光等を検出器で測定する事により、そのエネルギーと強度を記録するとスペクトルを描けます。それを解析する事で様々物性値を割り出す事が出来る訳です。
代表的なものを挙げると、XPS、AES、EDS、XRF等です。
XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)はESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも呼ばれ、代表的表面分析手法です。X線を照射し、光電効果で飛び出した電子を電子エネルギー分析器で測定し、表面の元素濃度や状態分析(結合状態)を行う手法です。出てくる電子のエネルギーは限られており、表面ごく近傍(1〜10層程度)のみの原子からしか電子が飛び出してこない為、表面に非常に感度が高い分析手法です。
AES(Auger Electron Spectroscopy)もXPS同様、表面感度の高い分析手法です。電子を照射して発生するAuger電子と呼ばれる特殊な電子を測定する事で、表面の元素濃度を知る事が出来ます。XPSと異なるのは、照射するのが電子ビームであり、走査する事によりSEM像を得る事が出来、AESで分析する場所を局所的に絞れる為、空間分解能が非常に優れている点です。
EDS(Energy Dispersed Spectroscopy)は通常SEM(やXRF)に取り付けられている元素分析装置です。SEMの電子ビームによって照射された表面から出た元素に特有な特性X線を半導体検出器で測定し、X線のエネルギーと強度を測定しスペクトルから、元素分析を行う事が出来ます。EPMA(Electron Probe Micro Analysis)についているWDS(Wavelenght Dispersed Spectroscopy)も基本的には同じ原理でX線のエネルギー分析方法が分光結晶を使っている点が異なるだけです。簡便に元素濃度を測定でき、SEMで見ているものが何なのか直ぐ分かる点で非常優れた測定方法です。しかし、X線はかなり表面から深い所からでも出てくる事が出来るので、表面感度は非常に低い分析方法です。主に入射する電子ビームのエネルギーで決まりますが、せいぜいサブマイクロオーダ(0.1μm)の表面感度です。
XRF(X-Ray X-Ray Fluorescence)はX線を照射して元素に特有な特性X線を測定し元素分析を行います。原理上これでは表面分析になりませんが、表面に平行に近い角度で入射する全反射モード(全反射蛍光X線法:Total Reflection X-Ray Fluorescence)を利用すると、1〜100nmの表面感度で表面分析を行う事が出来ます。
他にも、表面の化学種の同定と云う目的以外にも、低速の電子を単結晶にぶつけて散乱してくる電子の回折パターンを蛍光スクリーンで受けて再構成表面の周期性を調べる低速電子回折法(Low-Energy Electron Diffraction:LEED)や、高速の電子を表面すれすれに入射して、やはり回折パターンから再構成表面を調べる反射型高速電子回折法(Reflection High-Energy Electron Diffraction:RHEED)等が有ります。これらは、表面の構造を知るための手法です。再構成表面はバルク(結晶内部)の構造が表面に曝された時に、より安定化したエネルギー状態に落ち着く為に構造が変化した結果、バルクと異なる周期構造になったもので、特に半導体の表面反応を知る上で非常に重要な指標となります。この再構成表面にはいろいろな種類が有りますが、その構造によって表面反応の起き易さが異なります。
B表面を刺激して飛び出してきた分子を見るは、表面に光、熱、電子、イオン等の刺激を与えて、表面から出てくる分子等をスペクトル法を用いて観察します。基本的に表面を破壊しますが、Aに比べて感度が高い事が多いです。
代表的なものは、二次イオン質量分析法(Seconderly Ion Mass Spectroscopy:SIMS)です。加速したイオンビームを表面に当て、表面が弾き飛ばされイオン化したものを質量分析器で測定するものです。連続的に測定を行う事で表面から深さ方向への元素組成分布を測定する事が出来ます。しかし、表面構造がイオンビームよって破壊される事で、二次イオンのイオン化効率が変化して元素感度が乱れる事が多く、これをマトリックス効果と呼んでSIMSの欠点として良く認識されています。イオンビームで弾き飛ばされた中性原子等を測定する方法は、中性粒子質量分析法(Scattered Neutral Mass Spectroscopy:SNMS)と呼ばれ、マトリックス効果が殆ど無い深さ分布測定方法として利用されています。
それから、表面反応物や吸着種の同定や、吸着状態の測定方法として簡便かつ有効な分析方法として昇温脱離法(Thermal Desorption Spectroscopy:TDS, Temperature Programed Spectroscopy:TPD)が有名です。これは、基板に吸着している物を、一定の昇温レート加熱する事で放出される吸着物を質量分析器で測定し、温度に対して各マスナンバーのスペクトルを描くとそのピークや形状から、吸着層数や、脱離反応次数、活性化エネルギー等様々な情報が得られます。表面反応の研究には非常に重宝します。
他にも、あまりメジャーでは有りませんが、イオン散乱分光(Ion Scattering Spectroscopy:ISS)と言う方法もあり、高速で入射したイオンが散乱されてエネルギーを失うのを半導体検出器を用いて測定し、得られる運動エネルギースペクトルをコンピュータシミュレーションで詳しく解析する事で、表面に存在する元素濃度や、非破壊で深さ方向の分布解析が行えたりします。