私の研究
ほんとにいいわけと,反省のない愚痴だなあ...KS
(山口大学広報 YUInformation 32(1997))私の研究
「理論物理研究者になる方法・実践篇」 白石 清
- 読者への注意書き。
- 1
- あなたが学生の場合。暇つぶしに読んでください。もっとも日本語が読めるなら。
- 2
- あなたが教育関係者の場合。こういう変なことをやってる人がいるということに,喜んだり/怒ったり/哀しんだり/楽しんだりしてください。
- 3
- あなたが企業関係者の場合。何の役にも立たない記事です。>>次の記事に進む
理論物理のなかでも,私の主たる興味は重力と素粒子論にあります。素粒子論は考え方からして単純で,とにかく簡単なモデルで相互作用の統一を行おうとしているわけです。だから素粒子理論の業界にはかなり楽天的な方が多いように見受けられます。重力の理論的研究においては,いろいろな状況(いろいろな物質の配位とか)のもとでアインシュタイン方程式を解くとか,その時空の性質を調べるとかをするわけです。素粒子論と重力の絡んだ話題,たとえば重力を含む統一理論の探究というようなテーマは,まったく誰も訳のわからない分野で,いろんなアイディアが出されるところです。実験的検証が難しいことが多いので,誰が何を主張しても構わない,というような感じです。(文系の・・学に似ている?)関連していることですが,曲がった時空の上での場の理論の研究もいろいろとおもしろいことがみつかる分野です。たとえば,ブラックホールのまわりでの粒子生成とか,量子場の初期宇宙の発展に及ぼす効果などがあげられます。
- 学生Q:
- 先生こんにちは。また今日も机に向かってボーっとなさってるんですね。よほど暇なんですか。
- KS :
- ばかなことをいうな。いろいろ締め切りが近いんで,一所懸命頭の中で考えて居るんじゃ。
- Q :
- 先生は宇宙の研究をなさっているのではないのですか?
- KS:
- うーん,そうだね。重力と素粒子論の話が絡んできて面白いのは,初期宇宙のあたりのはなしなんだ。1980年代初頭には,素粒子の統一理論がブレイクしたころで,宇宙論に適用して「インフレーション宇宙」というモデルが大流行した。もちろんただの流行ではなくて,いまでもそういったモデルから銀河などの宇宙の構造の種となるゆらぎを計算することが行われている。それと,宇宙初期では,ブラックホールや,今は見えなくなっているような変わった粒子や広がった物体が多数存在していて,それらが現在の観測される宇宙の性質と実は深く関わっているのかもしれない。もちろん,今言ったようなものは,統一理論の要請と関係して考えられているものだ。
- Q :
- なんだかさっぱりわかりませんが・・・
- KS:
- さらにもっと宇宙の始まりの頃を考えると,時空の構造も普段考えているものとは異なったものになっているのかもしれない。たとえば,空間の次元も普段考えているような3次元ではなくてもっと高い次元かもしれない。それに,重力理論もアインシュタインの考えたものよりも一見複雑なものになっているかもしれない。もっとも,量子重力と,その他の力の統一理論が完成されれば,きっと簡単な原理で表されるのだろうが。
- Q :
- 先生の話には星とかでてきませんが。
- KS:
- (ちょっとあわてて)えっと,普通の恒星とかは天体物理学の研究者たちが詳しく研究してるねぇ。素粒子論的に面白いものとしては,ボゾンスターとよばれる,量子力学的な場が重力などによってコンパクトな構造をとった物体が知られている。私は銀河の形を作るものとしてこんなものが実在しているのじゃないかと思っている。統一理論で予想される,さまざまな種類の力がさらに働いているときの構造なんかを現在検討している。
- Q :
- なんか現実離れした話が多そうですね。
- KS:
- ぐっ(せきこんで),いや,ま,観測的宇宙論も最近国内国外で進んでいるから,いろいろ面白いことが見つかったりして,理論的側面も新たな展開を見せるかもしれないねえ。
- Q :
- てことは,先生は当面やっぱり夢みたいなことを研究なさっているのですか?
- KS:
- (ひらきなおって)私の今までの研究は,高次元宇宙とか,ブラックホールの散乱とか,確かに現実離れしている。しかしこういった理論的研究もただ夢を見ているわけではない。重力を含む統一理論の完成に向けて,あらゆる側面からの攻撃が必要だし,概念的な発展は絶えず起こっている。高度な数学的な議論も盛んで,研究の最前線を理解するには,毎日山ほどプレプリントを読まなきゃいかん。
- Q :
- (いきおいにおされて,)よくわからないけど,たいへんそうですね。
- KS:
- 理論物理の分野で独創的な研究というのは本当に難しい。いいわけだと思ってもいいがね。新しい実験データがごろごろあるわけでもないし,そう簡単に新しいモデルがうまく行くわけでもない。それにあまり誰もやってないことを研究していても,誰も注目してくれないので,結局その分野は発展が遅れる。ある程度流行に乗っていかないと,研究が進んでいかない。もちろん議論をしなくちゃいけないから,しょうがない面があるけど,いいことも悪いこともあるね。
- Q :
- (いつもいいわけとぐちの多い人だなあ。)まあ,先生の研究は現実離れしてて,気楽で良さそうなことはわかりました。お金もかからなくていいですね。
- KS:
- まあ,文献に金を使うぐらいかな。ほんとは全国まわっていろんな人の話を聞きたいんだが,暇も金もないねえ。「もっと研究者の流動化を」なんておっしゃるかたがいるけど,そのまえに教育研究体制と旅費とかを見直した方がいいねぇ。
- Q :
- (科研費がとれないからいかんのじゃないの。それにしてもアブナイ方向にいってるな。くびにならないよう,話題を変えるか。先生はどうでもいいけど,今いる院生がかわいそうだ。)理論物理の研究者になるにはどうすればいいんですか。
- KS:
- それは簡単。忍耐力といい加減さ。これにつきるね。だいたいすぐに面白いことができるわけではないので,忍耐力がいります。いろいろな人のわけのわからん論文も読まんといけんからね。それと論理を追うにも忍耐力がいる。少なくとも私には。いい加減さは,とにかくいろいろ計算とか当たってみること。それと他の分野の手法を別の分野に使ったりするとか。あとあるモデルのパラメータを増やしてみるとか。独創性のないやり方に見えるけど,最初はものをいろいろな角度で見ないと何も見えないし,ひらめくものもひらめかないよ。それにパラメータの数をいじくるのは,臨界現象的なものを調べるには必須だね。
- Q :
- (どうみても最後はいいわけが入ってるな。)もっと具体的にないんですか。
- KS:
- 技術としては(この記事を読んでる人には当たり前だけど)高校程度の英語と算数,あとテフとマセマティカ,それと電子メールでプレプリントがとれればいいんじゃないの。何にでも興味を持ってできる人なら,すぐに研究できるよ。
- Q :
- (きっとこういう風にずうずしいことを言えることが必要なんだな,と)よくわかりました。バイトがあるので,失礼します。
- KS:
- じゃあね。今度くるときは女の子も連れてきてね。
- Q :
- (全力疾走で,逃げる。)
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