タイムマシン今昔

Time machines now

白石 清

  概要

タイムマシンに関する最近の理論物理学における話題について解説する。この解説は1995年10月17日(火)に行われた同題名の秋田市民講座,および秋田短大商経科1年の自然科学概論の講義ノートに基づいている。

§1 はじめに

タイムマシンといえば,昔からSFの代表的”大道具”としてよく知られています。HGウェルズのタイトルそのものズバリの作品は,映画にもなりました。映画といえば最近では”バック・トゥ・ザ・フューチャー”などが記憶に新しいところでしょうか。昔のテレビでは”タイムトンネル”,最近の漫画では”ドラえもん”が代表的なところでしょう。
さて,タイムトラベルの物理学的考察は,かなり前からおこなわれています。今日は最近の(1988)論文に端を発した議論について,ご紹介します。このタイムマシンは,同じ著者達が他の論文で述べているように,特殊相対論についての教育的実例となっていますから,今日のお話は特殊相対性理論の初等講義ということになります。
題名のように,”昔の”タイムマシンについてもお話ししなくてはなりませんが,おそらく時間がないと思いますので,そのときは申し訳ありませんが参考文献を参照して下さい。

§2 特殊相対性理論

1 相対性原理
ではその相対性理論の概略を示す準備にとりかかりましょう。まず一定の速度で走る車,または電車,飛行機を考えて下さい。この乗り物に乗った人がお手玉をしているとします。これはみなさんでも実験できますね。地上の地面に立っているときと同じようにできますね。当たり前ですが(もちろん,加速・減速,方向の変化のないとき)。これをものすごく大げさにいいますと,「どんな場所でも物理法則は同様に成り立つ」ということです。もちろん,今は限られた場合(例えば,地球の水平面近く),特に一定速度であることが重要ですが。
次に地面に固定された人から,車の中を観察してみましょう。簡単のため,車上の人はお手玉をただ真上に投げ上げて,キャッチしているとします。地上の人が見ると,車が水平方向に動いていくのにつれて,お手玉も動いていきますから,お手玉の軌跡だけ見ますと,放物線を描いて運動していることがわかります。お手玉の運動はこの二人の人にとっては,それぞれ別の運動に見えるということです。しかし,ここで重要なことに気が付きます。地上の人も斜め方向にお手玉を投げれば,全く同じ放物線を描くことが可能だということです。つまり再び,地上から観測したときも「物理法則は同様に成り立つ」ということです。ここで間違いやすいのは,地上と車上で同一なのは法則であって,現象そのものはその限りでない,ということです。実際,直線運動が放物線運動に見えたりするわけですから。難しいことをいえばこの場合,運動の初期条件が異なって見えるということになります。

2 光の速度

次に話は変わりますが,光の速度について考えます。実験的にはガリレオが試みて以来,数え切れないほどの人たちが光の速度を測っています。有名なレーマーの観測では,木星の衛星を使うのですが,光速度はかなりの精度で計られています。現在では光速度は299792458m/sとされています。 光は電磁波の一種であることが知られています。電磁波はマクスウェルの電磁気学理論によって記述されますが,光の速度は理論に含まれるの定数で与えられます。したがって,先に述べた法則の普遍性が成り立つとすれば,光の速度は誰が観測しても同一である,ということになります。
また,光の速度が有限であるということも重要なポイントです。夜空の星の光は近いもの(シリウス)でも約8年以上宇宙空間を通って地球上にやってきます(織姫星は地球から約26光年も離れている。)。太陽の光も地球に着くまで8分以上かかっています。これらのことから,遠く離れた出来事の時間的順序,あるいは「同時」の概念を考えるのにとても注意がいることがわかると思います。

3 相対性理論

アインシュタインの特殊相対性理論は,
1)互いに等速度運動している観測者に対して物理法則は不変である。
(物理法則の相対性原理)
2)互いに等速度運動している観測者に対して光速度は一定の値である。
(光速度不変の原理)
の2つの原理から導かれます。
2)の「光速度不変の原理」は必ずしもわれわれの常識とは一致しません。なぜなら,動いている車から物体を投げれば,地上の人には車の速度と投げた速度がたされたように見えるからです。この「光速度不変の原理」が,特殊相対性理論が難解であるように”みえる”原因となっているのです。ここで結論を先に言ってしまうと,光の速度に近いと,速度の足し算は普通の足し算と実は違っているのです。実験的に,光速度が運動に依らないことは確かめられています。マイケルソン・モーレーの実験では,地球が秒速約30kmで動いているにも関わらず,光の速度はどの方向でも一定であることが確かめられています。

4 運動する時計の遅れ

話を戻しまして,これらの原理から,「運動する時計の遅れ」を導いてみましょう。
まず,時計を作りましょう。半透明な鏡を二枚用意します。これを平行にとりつけ,このあいだを光が往復するようにします。光のパルスが何回往復したかで時間が計れるというわけです。この模型は,いろいろな解説書で用いられています。

図1
           

        見方を変えれば,まっすぐな物差しに沿って,光のパルスを進ませるのを,鏡を使って折り曲げただけだとわかります。だから,わかりにくくなったら,いつでもこのように考えればいいと思って下さい。
簡単のため,この時計を上下に光が進むように持って,車に乗り込みます。同じ時計を地上にもう一つ置いておきましょう。

    図2

            地上の人から車上の時計を見ると,光が斜め方向に進んでいるように見えます。こんなふうに,現象は違って見えても何も不思議がないことは,前に注意したとおりです。(物理法則として,”光の直進”は成立している!)このため,地上の人から見ると,車上の時計の中の光は地上の時計のよりも長い距離を進むように見え,一方光の速度は定数ですから,時計は遅れて見えることになります。
同じことは,車のなかの人が地上の時計を見たときにも成り立ちます。
これが,「運動する時計の遅れ」ということです。車上の人と地上の人の相対的関係にも注意して下さい。
さて,”長い距離”といったり,”遅れる”といったりしましたが,定量的にこれがどのくらいかを求めるには,もっと深い考察が必要です。今のモデルでも考察は可能ですが,簡単な鏡のないモデルを使いましょう。
それには,すごく長い距離が必要なので,宇宙空間を考えましょう。今,6光年離れたAとBと二つの星の間を光速の0.6倍の速度で進むロケットを考えます。ABと垂直に長い物差しを持っていると考えて下さい。たわむことが気になる場合は,何台ものロケットが並行して進み,それを支えていると思って下さい。

図3

さてAから出発したロケットは,静止した時計で計れば,10年後にBに到達します。出発と同時にAから出た光は,Aから10光年の距離に到達します。したがって,Bに到達した物差しの上では,8光年の目盛りのところにきているわけです。ですから,ABとともに静止している人は,ロケットのなかの時計が8年経過したときにBに到達したことになるわけです。式で書くと10×(1−0.621/2=8ということです。一般の速度では,時間の進み方は,1/(1−{(速さ)/(光速)}21/2となります。ロケットの速さが光速に近づくと,時計の進み方はいくらでも小さくなります。
ロケットのなかの人にとっては,どのように考えられるでしょうか。Bに到達したときに時計が8年経過を示すことは明らかです。見る人によって,現象が異なっていてもかまわないとはいえ,光の先端が目盛りと一致するというような「同一時刻同一点」での現象(事象)は誰にとっても事実でなければなりません。
結論として,ロケットの中の人にとって,AB間の距離が8×0.6=4.8光年として観測される,ということです。普通,「運動する物差しの縮み」として知られていることです。
賢明な方は,未来へいくタイムマシンがこれによって可能なことがわかるでしょう。ロケットが再びBからAにもどってくると,ロケットの中では16年しかたっていないのに,Aのではもう20年も経過しています!これは「ウラシマ効果」とか「双子のパラドックス」として知られています。ただし,この方法では,時間をさかのぼることはできません!(同じことは,「冷凍睡眠」(コールドスリープ)でもできますから,あまり画期的方法とは言えません。)

5 時空の座標

一見常識破りのような,このような現象の記述は,時間と空間を統一して「時空」として考えれば,数学的に簡潔に取り扱うことができます。統一の鍵はもちろん光速度一定の原理です。
平面上の点の位置を示すのに,座標を使うと便利です。同様に事象を示すのには時空の座標を使えば統一して記述できます。
Aに静止している人について,時空の座標を考えましょう。縦軸に時間をとります。ただし,目盛りは時間に光速を掛けたものとします。

図4

こうすると,Aを発した光は紙面上では45度の傾きを持った直線で表されます。この座標では静止しているものは垂直な直線で表されます。ロケットに積んだ物差しは,紙面に垂直に立っていると考えなければなりません。この座標系では,ロケットの軌跡は少し傾いた直線となります。点EがロケットのBへの到着を表します。
ロケットの中の人が座標を書くとこうなります。

図5

では,先ほどのAに対して静止している人の座標の中に,ロケットの中の人の座標を書き入れてみましょう。ロケットの人の時間座標軸は先ほどの傾いた直線OEでなくてはなりません。x座標軸はどうなるでしょうか。光の速度が一定であるためには,x座標軸も同じだけ傾かなくてはなりません。座標の目盛りも変えなくてはいけません。OEの目盛りは8光年でなくてはなりません。ロケットの人が観測するABの距離はどうなるでしょう。ロケットの人にとっての距離は,その人にとっての同時刻で定義してやります(「同時刻の相対性」)。ですから図でOFとなります。OE’の長さが8光年ですから,明らかにOFの目盛りは6光年より短くなります。ちょっとした幾何(算数)を使えば,4.8光年であることがわかります。これですべての事実が説明できます。

図6

ここでは詳しく述べませんが,ここでおこなったことは数学ではある種の座標変換とみなすことができます。(ローレンツ変換ということもあります。)結局,特殊相対性理論は,光速を一定にするような,時空座標の線形変換(直線を直線に移す変換)の体系である,ということができます。

§3 曲がった時空

さて,話は変わりますが,ボールの表面を考えてみましょう。地球も大きな球体です。その上では,いろいろな座標を考えることができますが,全体を直線座標で記述することはできません。これは,球の表面が曲がっているからです。円筒や円錐(とんがったところをのぞく)の面では,展開図を書いて,真っ直ぐな座標を書くことができます。これが曲がった面とそうでない面の本質的違いです。 同じように,曲がった時空というものも考えることができます。時空の曲率が重力を表す,というのがアインシュタインの重力理論,即ち一般相対性理論の基本となる考えの一つです。
曲がった時空の中では,物体は一般には曲がった軌跡を描きます。これを重力によって運動が変化していると解釈するわけです。
非常に強い重力を考えますと,時空の曲がり方がある種の極端な状態になります。これがブラックホール(black hole)です。

図7

時空がもっとねじれて,トンネルのようになった状態も想像することができます。これがワームホール(worm hole)です。ここでは,同一時刻の場所をつないだものを考えます。

図8

ここで入り口と出口の長さはいくらでも短くできることに注意して下さい。こうやっても,外側の空間には少ししか”曲がり”がないことは,円筒の面の例と同じです。
ワームホールはドラえもんの”どこでもドア”と本質的に同じです。(ただしどこでもドアは通った後消えてしまうこともありますが,今は消えてしまわない場合を考えます。)

§4 ”どこでもドア”でタイムトラベル

ここまで準備してやっと,タイムマシンを作る話になります。ワームホール(どこでもドア)を使って,タイムマシンを作ります。
ワームホールの一方の口をA地点に置きます。もう一方をB地点に置きます。Bの方の口を光速に近い速度で動かします。振動運動でもかまいません。そうすると,B地点での時計は遅れていますから,Aが3時でBが2時ということも起きます。そのときBの口から入れば,Bに対して同時刻の場所に通じていますから,2時のA地点に到達するわけです。
あらかじめ違う時刻をつないだワームホールもありえますが,重要なのは一つのタイプのワームホール(どこでもドア)でBの口の運動によってさかのぼる時間をコントロールできることです。ただし,ワームホールをセットアップした時刻より前にさかのぼることはできません。

図9

問題なのは,ワームホール(どこでもドア)をどこから調達するかです。
現在知られているような技術ではワームホールを作ることは難しいと思われます。しかし,宇宙初期にできたワームホールがどこかにあるかもしれません(大きさは10−33cm位のものが期待されています。)。そうなれば,それを研究することにより,制御可能なものへと作り替えることも不可能とはいえません。また,量子重力理論がもっと解明されれば作り出すことさえ可能かもしれません。
これに対してホーキングは,量子効果によって,タイムマシンは不可能になるのでは,と主張しています。彼の「時間順序保護仮説」は現在も議論されています。

§5 おわりに

以上紹介したものの他,宇宙初期にできたと考えられる「宇宙ひも」を使ったタイムマシンも最近考案されています。これについても量子効果などの議論がごく最近でもなされています。
また,ある種のブラックホールを用いたタイムマシンや,それに対する反論なども活発に議論されています。これについては,重力と一般相対論についてもっと講義をしなければなりません。また量子論についても,いろいろ面白いことが議論されています。またいつか機会があれば,ご紹介したいと思います。
さて,あなたはタイムマシンを発明しますか?それとも未来から誰かやってくるのを待ちますか?
(今のところ,時間をさかのぼることはできないので,そろそろ時間切れのようです。ありがとうございました。)

参考文献

ニュートン別冊 相対性理論
ニュートン別冊 星座物語
SWホーキング 時間順序保護仮説 NTT出版
二間瀬敏史 もっとわかる時間のこと 日本実業出版社
二間瀬敏史 だから宇宙は面白い   平凡社
松田卓也+二間瀬敏史 時間の本質をさぐる 講談社現代新書
都築卓司  時間の不思議      講談社ブルーバックス
細谷暁夫  さまざまな時間を旅する あすなろ書房
前田恵一  宇宙のトポロジー(new science age 47) 岩波書店
佐藤勝彦  宇宙論講義 Z会ペブル選書3 増進会出版社
B. Parker  アインシュタインと時空の旅 丸善
P. Halpern タイムマシン      丸善
ハーバート タイムマシンの作り方   講談社ブルーバックス
フォワード SFはどこまで実現するか 講談社ブルーバックス


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