ニュートリノ話 物理学特論  2003年2月6日 自然情報概論 2003年5月2日 基礎セミナー 2003年5月6日 基礎セミナー 2004年7月20日 -----------------------------------  小柴昌俊先生のノーベル賞受賞によって,物理に関心を持つ人が増えると良いのですが(大学の成績が悪いことばかり覚えられていたりして。そのあとは超優秀なんですが・・・)。  受賞理由は「天体物理学とくに宇宙ニュートリノの検出にパイオニア的貢献」とのこと。検出が極めて難しいニュートリノという素粒子を,太陽ニュートリノや超新星爆発によるニュートリノとして検出して,ニュートリノ天文学という新しい分野を開拓したということです。 先日,テレビのクイズでニュートリノを知ってた人が20%くらいしかいませんでした。あー。というわけで,まずはニュートリノの話から。 ・ニュートリノとは?  ニュートリノは核崩壊のときに必ず生じる粒子です。高校物理では,ベータ崩壊は扱われているのに,なぜかニュートリノは(一部の参考書を除いて)でてきませんね。たとえば,炭素14が崩壊して窒素14になり,電子を1個放出しますね。原子番号が一つ増えているわけで,つまり,原子核中の中性子が一つ陽子に変わったわけです。このときニュートリノがひとつでてきます(今,簡単にニュートリノと言いましたが,現在ではこれは反電子ニュートリノとよばれるべきものであるとされています。特に区別しない場合ひっくるめてニュートリノと呼びます)。電荷の保存を考えると,ニュートリノは電荷を持っていない(電荷0,または電気的に中性)。  崩壊の際のエネルギー保存を調べる実験結果から,1931年にパウリがニュートリノ(中性微子)の存在を予言しました(運動量,角運動量(スピン)の保存も!)。β崩壊の際出てくるニュートリノのエネルギーは一定ではありません。二体に崩壊するならば,ほとんど決まった値となるはずです。したがって,電荷0の粒子が同時に生まれることが推測されます(ボーアが素過程におけるエネルギー非保存を提唱した(1930)ほど,混乱が大きかったのですが)。もっとも,最初はニュートロン(中性子)と呼んでいたと聞きますが(今でいう中性子の発見は1932年)。  1934年にはフェルミがベータ崩壊の理論を提唱しました。実験的なニュートリノの検証はもっとあとで,(1953〜1956年ごろ)ライナス(1995年ノーベル賞受賞),コーワンらによって反ニュートリノの存在が確認されました(地下12mで11m離れた700MW原子炉からの反ニュートリノを観測,彼らはたった3例を見つけた!)。そののち,ミューニュートリノという電子ニュートリノと違う種類のニュートリノが存在することも実験的に示されました(レーダーマン,スタインバーガー,シュワルツ,1988年ノーベル賞受賞)。  物質を構成しているもっとも基本的な粒子(素粒子)には,原子核の陽子や中性子を構成する「クォーク」と,電子やニュートリノのような「レプトン」があります。  現在では電子ニュートリノ,ミューニュートリノ,タウニュートリノの3種類のニュートリノが存在すると考えられています。基本粒子の間に働く力には,「強い力」「電磁気力」「弱い力」「重力」の4つがあります。ニュートリノは電荷をもっておらず,「弱い力」と「重力」しか働きませんので,他の粒子との相互作用が弱く,物質をほとんど素通りします(地球を約7光年分並べてやっと一回反応!)。このため,宇宙のはるか彼方や太陽の中心部で発生したニュ ートリノは,そのまま地球にやってきます。そのため,観測が非常に難しく,実際には塩素(ディヴィスの検出器:後出)やガリウム(GALLEX(伊),SAGE(露)),水素などの原子核に衝突したときにごくまれに起こる逆ベータ反応などにより検出します。  これまでの素粒子実験では,ニュートリノの質量はほとんどゼロとされていました。このことは,β崩壊における電子のエネルギースペクトルの端っこを見てもわかるはずです。  現在の宇宙には,1立方センチあたり110個(×3種類!)という密度で存在しており,ほぼ光速で飛び回っているはずです。(しかし,大部分はエネルギーが低いため,観測は困難です。1.9Kの背景輻射)  ところで,人間もニュートリノ源です。カリウム同位体のため,毎日約3億個(大人で)のニュートリノを発生しています。 ・カミオカンデとは?  カミオカンデは1981年に岐阜県吉城郡神岡町(岐阜県北部・富山県に近い)の神岡鉱山(鉛,亜鉛・・奈良時代には金山!)内(茂住坑)に建設開始。池の山(標高1368m)の直下約1000mの地下です。カミオカンデ実験は1983年7月に開始。建設当時はまだ鉱山が開いていて(〜2001年),トロッコで入っていきました。当初の目的は陽子崩壊実験(Kamioka Nucleon Decay Experiment)でした。「強い力」「電磁気力」「弱い力」を統一する「大統一理論」は,クォークがレプトンに変わることがきわめてまれにおこると予言します。したがって安定と考えられていた陽子にも寿命があることになる。当時の理論では陽子の寿命は10^30年程度なので,大量の物質をあつめれば,陽子崩壊が観測できると考えられました。  直径16m高さ16mの大きなタンクに純水を3000tいれ,その内面に50cm(20in.)光電子増倍管(光子の検出器)を約1000本とりつけました(浜松ホトニクス(当時は浜松テレビ)の協力がありました)。1m^2あたり一個とりつけます。壁の高いところの増倍管は,タンクに水を入れ,ゴムボートに乗って取り付けます。崩壊現象で生まれる荷電粒子が水の中を走るとチェレンコフ光を出しますので,それを増倍管で検出します。  水の中では,光は真空中での速さの1/1.33の速さを持ちます。荷電粒子がこれ以上のスピードで水中を走るとき,あたかも音波の場合の衝撃波のごとく(あるいは湖面のボートのつくる波のごとく),決まった角度の方向に光がでます。これがチェレンコフ光です。  水タンクの方法では,(陽電子+パイ中間子モードの他,)ニュートリノ+K中間子を含む崩壊モードをも捉えられるという利点があります。チェレンコフ光のパターンから,他の宇宙線現象と区別が容易となります。しかし陽子崩壊の兆候はいまをもってしても得られていません(このことから,陽子寿命は10^34年以上)。 ・カミオカンデ-II  実験により低エネルギー現象の観測も可能とわかり,1984年太陽ニュートリノ観測を目的に改良開始。アメリカからの研究者も参加しました。周辺からの影響の除去(鉱山のためラドンが多かった),アンタイカウンターの設置,および測定機器の更新をしました。有効体積2140t。  太陽ニュートリノ観測の草分けはノーベル賞同時受賞のデービス氏(レイモンド・デービス Jr.(Raymond Davis Jr.,アメリカ))です。デービス博士は,サウスダコタのホームステイク金鉱山の地下に615トンの四塩化エチレンを満たした観測装置を設置し,太陽からやって来るニュートリノを検出しました(1969年)(塩素から変わったアルゴン原子の数を数える,数十日間で10個程度,ヘリウムガスにより抽出)。これによって,太陽の内部では核融合が起こっていることを証明しました($4p\rightarrow{}^4He+2e^++2\nu_e$生まれるのはすべて電子ニュートリノ)。さらに,太陽からやって来るニュートリノの量が,太陽内部の理論で予想される量の3分の1しかないという結果を発表しました。これが「太陽ニュートリノ問題」です。  カミオカンデの長所は,電子ニュートリノのやってくる方向がわかるため,太陽ニュートリノか否かが区別でき,またほぼ実時間で観測が出来ることです。1987年からの観測により,「太陽ニュートリノ問題」の確認(理論の約45%)に成功しました(1989年)。 ・超新星からのニュートリノ  装置改良がほぼ完成した1987年2月23日,超新星1987Aが出現しました。肉眼で見える超新星としては,約400年ぶりです。われわれから約17万光年離れた大マゼラン星雲で超新星爆発が起きたのです。光では南半球でしか観測できませんが,ニュートリノは地球を通過してやってきます。カミオカンデ検出器を通過した約10^10個のうち11個を観測することができました。この反ニュートリノは約13秒間の間に放出された事がわかります(一個あたり10〜30MeV。反ニュートリノは陽子と反応し,ほぼ等方に陽電子を出す。中性子星生成の際,鉄の中心核が中性子星へと変わるときのニュートリノは,パルス的に放出される。観測されたのはその後の熱的に生成された反ニュートリノ。)。  超新星爆発は,比較的重い恒星(太陽の8倍以上)の終焉に起きます。恒星は,重力と核融合による熱がもたらす圧力の釣り合いによって成り立っていますが,やがて融合できる元素が枯渇する(中心部はほぼ鉄からなる・・・太陽の約1.4倍の質量)と,星は爆発的に収縮し,やがて跳ね返って超新星爆発となります(中性子星が残る)。  実は超新星爆発のエネルギーの99%はニュートリノが運びます。超新星が明るく輝くのはニュートリノ観測後約3時間のことだったのです。この超新星ニュートリノの観測からわかったことは,爆発のエネルギーが約2.8x10^53ergであったことで,理論的数値と一致しました。超新星爆発の理論が検証されたことになります。 ・スーパーカミオカンデ  小柴氏が1983年に提唱。1991年建設開始,1996年完成。直径40m,高さ41.4mのタンクに純水50000t(内側32000t,外側18000t)。光電子増倍管(改良型)は11146本。もちろんアンタイカウンターもある。  もう鉱山は閉じているため,トロッコでなく車で入れるようにしました。ほぼ水平の道を。  このスーパーカミオカンデは太陽ニュートリノの観測や,さらには陽子崩壊の観測の他にも,大気ニュートリノを観測することができます。これができた頃には,Kamiokande=Kamioka Neutrino Detection Experimentと思っている人がほとんどとなりました!? ・大気ニュートリノの観測  1998年,東大・宇宙線研究所を中心とした日米の共同研究グループ(代表・戸塚洋二東大宇宙線研究所所長(当時),現 高エネルギー加速器研究機構教授)がニュートリノの質量を確認したと報道がありました。これは6月5日午前,岐阜県高山市(高山市民文化会館)のニュートリノ国際会議での梶田隆章・東大宇宙線研究所助教授の発表についての報道です。新聞,雑誌でさかんにとりあげられましたので,みなさんもご存じかと思います。  もし,ニュートリノに質量があるなら,3種類のニュートリノがそれぞれ別種のニュートリノに変化を繰り返す現象(ニュートリノ振動)が 予想されていました。この発表はこのニュートリノ振動を確認したとのことです。  研究グループは東大宇宙線研究所を中心に,日米約120人の大グループです。スーパーカミオカンデで1996年4月から,宇宙線が大気と衝突して発生するニュートリノを観測してきました。  大気からのニュートリノは一日に約20個,計約4500個観測されましたが,ミューニュートリノが電子ニュートリノの約2倍存在するはずなのに1.2倍しかありませんでした。(まず大気でできたパイ中間子がミューオンとミューニュートリノに崩壊します。ミューオンは電子と電子ニュートリノ,ミューニュートリノに壊れます。)またミューニュートリノの数は真上からは,ほぼ予想通りでしたが,真上から外れるほど減り,地球裏側の真下から来る数は予想の半分でした。この一年でデータが蓄積し,事実がはっきりしてきました。  大気でのニュートリノ発生場所は真上が上空約20kmなのに,水平では約1000km,真下は地球の裏側で約13000kmも離れているのです。一連のデータは,ミューニュートリノが長距離飛ぶ間にタウニュートリノに変身する「振動」が起きていることを裏付けました。(タウニュートリノは現在直接観測できません。)  2004年7月,「ニュートリノ振動」を直接観測したと発表しました。これまで,飛行距離が長くなるとミューニュートリノの数が減ることは観測されていました。今回の発表(2001年7月までのスーパーカミオカンデでの観測による)によると,ミューニュートリノは最初は比較的短距離では減少したが,飛行距離が500キロを超えると増加に転じたそうです。これは約500キロ飛ぶごとにミューニュートリノがタウニュートリノに変わったのち再びミューニュートリノに戻るという変化が起こったことを示しています。 ・ニュートリノ振動  ニュートリノの質量を検証するということは,「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象を確認することです(注:歴史的には,1969年にソ連のポンテコルボとグリボフが最初に提唱)。これは,ニュートリノにある3種類の型(電子型,タウ型,ミュー型)のうち,あるニュートリノが別の型に姿を変えることをいいます.長距離を飛行する間にたびたび繰り返されるため,“振動”という言葉がつけられています。  ニュートリノの型と質量とは固有に決まっているものではなく,それらが一致しない場合,一般にはニュートリノの重ね合せの状態とみることができ,これは時間とともに変化しています。そのときの状態はそのニュートリノの質量と型によって決まっているので,この状態の変化,つまりニュートリノ振動を確認することにより質量が検証できるということになります。  ニュートリノに微小な質量を許すとすれば,一般に相互作用の固有状態と質量の固有状態が異なってくるので,ニュートリノについてもクォークのCKM行列(キャビボ・小林・益川行列)と同じような形の混合行列(牧・中川・坂田行列(MNS行列))が現われ,例えば弱い相互作用によってつくられたミューニュートリノが自由粒子として空を飛んでくる間にタウニュートリノに変換される可能性がでてきます。  ニュートリノ振動の現象は,連結された振り子のモデルで理解することができます。片方の振り子を最初に振らしたときに,やがて他方の振り子が振れてきます。 振幅の二乗が存在量(割合)に比例すると思えば,二種類のニュートリノの混合した場合と同じで現象であることがわかります。  ニュートリノ振動現象は,ニュートリノの質量の自乗の差に関係していて,絶対的な質量は直接観測から得ることはできません。大気ニュートリノの観測結果からは  ・質量固有状態 (ν_1, ν_2) の2乗質量差   Δm^2 = m_2^2 - m_1^2 = 10^(-2) 〜 10^(-3) eV^2       ちなみに電子の質量は約0.5MeV,陽子の質量は約1GeV。  ・ν_1, ν_2 の混合角θ ・・・ sin^2 2θ = 0.8 〜 1.0 μニュートリノとτニュートリノの間で振動が起きるとする。 μニュートリノが距離L走ったとき,τニュートリノに変わっている確率(割合):P P(μ→τ) = sin^2(2θ) sin^2[1.27 (Δm^2/eV^2)(E/GeV)^(-1)(L/km)] Δm^2: 2つの質量固有値の2乗の差 θ: 混合角 L: ニュートリノの走る距離 E: ニュートリノのエネルギー ・太陽ニュートリノの観測  太陽からのニュートリノの量については,以前からの観測で,太陽の構造の理論から予想される量よりも,少ないニュートリノしか観測されていないことがわかっています。このことも,別のニュートリノ振動(電子ニュートリノが別の種類に変換する)によって説明できると考えられます。スーパーカミオカンデは20000以上の太陽ニュートリノを捕らえてきました。  太陽ニュートリノ問題が本当にニュートリノ振動で説明できるかを実験的に追求するにはどうすればいいでしょう。大気ニュートリノのときのように,異なる飛行距離をとるわけにもいきません。そこで,いろいろなエネルギーを持ったニュートリノについて調べることが,重要な検証を導く方法です。また,異なるニュートリノ反応も区別できるともっとはっきりしてくるでしょう。  2001年の6月18日,カナダ・アメリカ・イギリスの共同実験グループが,太陽内部でできる太陽ニュートリノに質量があることを示す実験結果を得たと発表しました。この実験は,カナダにあるサドベリーニュートリノ天文台(SNO実験)によって行われ,これまでのスーパーカミオカンデでの観測結果と照らして分析を進めた結果,太陽ニュートリノが地球に到達する間に別のニュートリノに変わっていることを確かめたものです。  SNO実験は,カナダのサドベリーにあるニッケル鉱山の地下2000mに1000tの重水を用いて電子ニュートリノの信号のみを10000個の光電増倍管で捕らえます(1999開始)。カナダは重水炉を運用しているので,重水が入手しやすいのですね。カミオカンデと同様に,ボロン8の反応過程からの比較的高いエネルギーのニュートリノを見ます。重水実験では,電子とニュートリノの弾性散乱の他,荷電カレントによる;電子ニュートリノ+d-->電子+p+p,それと重水素の破壊;ニュートリノ+d-->ニュートリノ+p+nがあり,区別できるのが強みです。要するに,他の種類に変わったニュートリノも反応するわけですね。  今回の「太陽ニュートリノに質量あり」の発表によって,ニュートリノに質量が存在することは確実となりました。  ・質量固有状態 (ν_1, ν_2) の2乗質量差   Δm^2 = m_2^2 - m_1^2 = 5x10^(-5) eV^2  ・ν_1, ν_2 の混合角θ ・・・ tan^2 θ = 0.34 MSW ・K2K  1999年(6月)から,つくばの高エネルギー加速器研究機構(KEK)の陽子シンクロトロンからつくられた1GeV程度のエネルギーのミューニュートリノビームを250キロ離れたスーパーカミオカンデに打ち込んで,ニュートリノ振動を検出しようとしています。KEK内では1000tのタンクに800本の検出装置を備えた「ベビーカミオカンデ」を設置。ここで20秒に1個捕まるニュートリノが,スーパーカミオカンデでは2日に1個程度。大気ニュートリノ問題の検証ができます。  ・質量固有状態 (ν_1, ν_2) の2乗質量差   Δm^2 = m_2^2 - m_1^2 = 2.8x10^(-3) eV^2  ・ν_1, ν_2 の混合角θ ・・・ sin^2 2θ = 1 2004年6月,K2Kグループは「質量がある確率は99・99%」と発表。2004年2月までに108個のミューニュートリノを検出したが,ニュートリノ振動がないと仮定した場合の理論値約150個に比べて明らかに少なかったからです。また検出したニュートリノのエネルギー分布にもニュートリノ振動の特徴が見られました。 ・スーパーカミオカンデの事故  新聞・テレビなどでも大きく報道されたとおり,2001年11月12日,スーパーカミオカンデ初の補修工事(2001年7月から)に伴って起きた事故により,センサーとなる光電子増倍管の約60%が数秒間で破壊されてしまいました。しかし,多くの人々の努力(ボランティアを含む)により,2002年の12月に復旧しました(残った約5200本の増倍管を再配置して使用)。この修復工事では,今後の事故による装置の破損を最小限に抑えること(カバーをつけた),さらに今回の事故がこれからの観測に影響を及ぼさないようにすることを想定し,1年半にわたって作業が行われました。 ・カムランド 一方,東北大学(ニュートリノ科学研究センター),スタンフォード大などの共同チームが,カミオカンデの跡地に建設していた反ニュートリノの観測装置KamLAND(Kamioka Liquid scintillator Anti-Neutrino Detector)(カムランド)が,2002年1月22日より,正式に観測を開始しました。  このカムランドは,敦賀や柏崎の原子力発電所(平均約175kmの距離)で発生する低エネルギーの反電子ニュートリノを観測します。内側に光電子増倍管を1800個取り付けた直径19mのタンク(1800m^3バッファオイル)のなかに浮かぶ直径13mの液体シンチレータ(“巨大な風船”)には,ニュートリノが陽子と衝突すると(カミオカンデのチェレンコフ光の約100倍明るく)発光する特殊な流動パラフィン,1200m^3,1000tが満たされており,スーパーカミオカンデよりも3桁低いエネルギーのニュートリノを検出することができます.  そのほか,超新星爆発にともなう反ニュートリノの検出,宇宙の90%以上を構成するといわれるダークマターの検出と解明,太陽ニュートリノ問題の解明,そして地球内部に存在する放射性物質から生成される反ニュートリノの検出と地球内部エネルギー量の解明,などさまざまな目的で観測が行われる予定です.  ノーベル賞の授賞式を目前に控えた2002年12月6日,東北大教授・鈴木厚人氏(小柴先生の教授時代の助手)の研究グループは,カムランドの2002年10月までのデータにより,“ニュートリノは99%以上の確率で質量をもつ”と発表しました。理論では87個捕らえられるはずの反ニュートリノが54個しか捕らえられなかったことによります。 ・ハイパーカミオカンデ  HyperKamiokande 1000000tタンク。ミキシングの第4のパラメータCP混合位相が測れるか?もちろん陽子崩壊も視野。 ・ニュートリノの質量と素粒子理論  ニュートリノ振動現象が確かめられれば,少なくともひとつのニュートリノは質量をもち,したがって従来の標準理論では考慮していなかった成分を新たに導入しなければなりません。ニュートリノに質量が存在することが確実となったことを受け,20世紀初頭にニュートン力学がアインシュタインの相対性理論に包含されたように,現在の素粒子の標準理論を含んだ形での新たな理論の誕生が期待されます。 ・ニュートリノの質量と宇宙  現在の宇宙を構成するものは,銀河,銀河団,ダーク・マター(暗黒物質,光らない物質)だといわれています。ニュートリノは現在のダーク・マターの候補でした。3種のニュートリノのうち,もし一つでも10eV程度以上の質量をもつものがあれば,ニュートリノがダーク・マターの候補の一つになります(cf.電子eの質量50万eV)。最近の観測からは,ニュートリノの質量はダークマターとなるには小さすぎるようです。  ニュートリノが3種以外の奇妙なニュートリノ(ステライル・ニュートリノ)に転換するモデルも可能で,このときは例えばタウニュートリノがダークマターになるかもしれません。しかし,標準理論の変更が必要です。  ダークマターの性質と存在量は,銀河の形成と密接に関係しています。ダークマターのふつうの物質との相互作用は非常に小さいとおもわれますが,宇宙規模では重力の相互作用が重要となるためです。しかし,理論的にはいろいろなシミュレーションがなされていて,ダークマターの性質によって異なる構造が生じることがわかっています。仮に質量をもったニュートリノがダークマターだとすると,宇宙の大きな構造は造れますが,小さな構造はニュートリノの運動によって消されてしまいます。いろいろなダークマターの組み合わせによって,観測によって明らかになってきた銀河の分布をうまく説明することができるのでしょうか?  「われわれはどこからきて,どこへいくのか?」という疑問の答えを得るためには,宇宙の観測とともに,素粒子や重力の理論を解明することが必要です。素粒子理論,素粒子実験(観測を含む),宇宙の理論(宇宙論),宇宙の観測は,相互に結びつきながら発展しています。 ---------- 受講者のレポートを参考にしました。感謝。 参考文献 井上邦雄 数研出版 サイエンスネット 2003年11月号 日本物理学会誌2003Vol.58No.5 梶田隆章in「自然の謎と科学のロマン」(上)(新日本新聞社) 中畑雅行 物理教育50 (2002) 365--369 鈴木洋一郎 数学セミナー42 (2003) 3月号 50--55 鈴木洋一郎 応用物理72 (2003) 第8号 1007--1013 Masatoshi Koshiba, Rev. Mod. Phys. 75, July 2003, pp. 1011--1020. 裳華房のHP http://www.nobel.se/physics/articles/bahcall/ ほか <-- っでで?