01/23/2000

「あなたの住むのは何次元?」


歴史的記述ととくに研究の動機については,多々誤解があるかとおもいます。しかし,これは微妙な問題が多いですね!


高校生, 一般むけ(定員30名)
研究者,最先端を語る

日ごろ研究者って何しているの? 最先端ってどんなことしているの?科学は,どこで,どんなふうに進められているの??みなさんの疑問に,研究者自身がお答えします。少人数だからできる,じっくり科学を学ぶ会。ふるってご参加くださいね。

第3回 2月5日(土) 午後3時〜4時30分 「あなたの住むのは何次元?」
講師:白石 清 山口大学理学部自然情報科学科 助教授

 われわれの住んでいる世界は何次元でしょう?身の回りの空間のひろがりを考えてみると,縦,横,高さ,の3つの方向があります。だから普通,空間は3次元である,と思われています。ところが,理論物理学の研究によれば,空間の次元の数はもっと大きいらしいのです。われわれを構成しているような物質は,「膜」のような「3次元の面」に束縛されているらしいことが,最近の研究でわかってきました。重力だけは,「高い次元」の空間を伝わります。余分な次元の存在は,実験で検証可能であるかもしれません。また,特殊な物質は高い次元に広がっている可能性もあります。私たちは特別な場合でありますが,高い次元の中での星の構造を研究しています。
 現在,理論物理学者は,「膜」の考えを中心にして,いろいろな統一理論の可能性を検討しています。新しい世紀に向けて,理論と実験がともに「新しい次元」に向けて進み出そうとしています。


えーっと,このセミナー・シリーズの他の方と違って,ぼくの話には特定の装置とか試料とか出てきませんので,ひょっとしたらみなさん退屈されるかも知れません。頭の中の想像力をフルに使って,自然の仕組みに迫っていこうとするのが,われわれ理論物理屋の「日常」です。(ほんとのこというと,ひとの論文を読んでる時間の方が長いかも。やれやれ。)

今日は,まず空間の次元について考えましょう。そして,それが最近の「統一理論」とどうつながっていくかを見ていきましょう。

空間の次元

われわれのすんでいる世界は何次元でしょう?

空間の次元ってなんでしょう?空間には,たて,よこ,たかさ,3方向の広がりがありますね。だからわれわれの空間は3次元。あれ,これで話はおわり?もちろんそんなことはありませんよ。もうすこし詳しく考えていきましょう。(今日のお話ではフラクタル次元とかは扱いません。数学屋さんに聞いて!)

ひろがりがあるということは,どこでも好きな位置にいられるということ,とすると,たとえば部屋の中の蠅は「ある時刻に」空間のある場所にいるわけです。簡単のため,うんと小さい蠅(ショウジョウバエかな?)を想像して下さい。ぱっとみて蠅の大きさや向きはきにならないでしょう?さらにすすめて,位置だけを問題にすることにしますと,蠅を「点」で置き換えていいわけです。

この,(元・蠅だった)点の位置を表すのに,「座標」を使いましょう。といっても難しくはありません。床と二つの壁の交わるところから計って,こっちの壁から1m,もうひとつの壁から3m,床から2mとか決められますね。たとえば。この点の位置は3つの数値の組,今の場合(1,3,2),などとして決定されるわけです。この数値「3つ」の「3」が空間の次元の数です。わかりましたか?座標(の数値)を表すのに普通 x,y,z,とかを使いますね。

あとのこともあって,ちょっと唐突に,2つの点(2匹の蠅?)の間の距離を出しておきます。2点の座標の差を,dx,dy,dzとしますと,距離の自乗 ds2

ds2=dx2+dy2+dz2

となります。いきなり難しかったかな?ピタゴラスの定理を使うだけです。

3次元以外の空間,想像できますか?数学的には拡張は簡単。座標x,y,z,u,の四つで位置が指定できる空間,それは4次元空間。

3次元空間内で,原点(0,0,0)からの距離が一定値rであるような点のあつまり。何のことでしょう?そう,半径rの球面です。この球面上の点の座標は次を満たします。

x2+y2+z2=r2

数式になってしまえばこっちのもの。4次元空間内の半径rの球面は

x2+y2+z2+u2=r2

で表されます。もっと「高い」次元も同じ要領で,少なくとも数式上は,考えられそうですね?ビジュアルに想像しようとすると混乱してきますが。

逆に,2次元空間は考えやすいですね。平面を考えてみましょう。平面上の点の位置は(x,y)などで表せますね。だから2次元。

x2+y2=r2

は円(円周)の方程式ですね。これはだから,「2次元空間内の球面」であります。では,2次元空間についてちょっと考えてみましょう。

2次元空間内のお話というので有名なのは,アボットさんの「平面国」(訳は東京図書,昔は講談社ブルーバックスにも)です。読まれてない方にはお薦めします。ではようこそ2次元の世界へ!

2次元空間の代表としては,平面ですね。四角い紙をもってきます。この上は確かに2次元空間といっていいでしょう。でも,端があるのが気になりますね。では両端をそれぞれくっつけてしまいましょう。ドーナツの表面みたいになりましたね。(ほんとは,われわれの3次元空間の中でつくろうとしてもできません。どこか折れ曲がってしまいます。おどろくことに,もっと高い次元の中では,紙のような平面からスムーズにトーラスが「つくれます」。)これを(2次元の)トーラスとよびます。この世界では,一周して元に戻ってくることができます。いや,移動しなくても,望遠鏡で遠くを見ると,自分が何度も見えてきます!「トーラスの展開図」を書いてみると,よくわかるでしょう。

突然話がとびますが,われわれの3次元空間も3次元トーラスかも知れませんよ!実際,望遠鏡で銀河を調べて,繰り返しのパターンがないかを調べているひとがいます。もっと遠くからやってくる電波についても,「トーラス宇宙」のモデルによる解析と比較検討されています。いまのところ,「トーラス宇宙」の証拠は見つかってないようですが?

ひねってつなげるともっと違った空間ができますね。考えてみて下さい。3次元で考えると頭痛くなりますよ!(ここでは,3次元で負の曲率を持つ場合について詳しくふれられない。残念。)

世界一周できる2次元空間?いっぱい(実は無限個)ありますが,もっともポピュラーなのは球面ですよね。われわれ地球の表面に住んでますもんね。確かに2つの座標で位置が表せます。地球上では経度と緯度で指定されます。こんな座標でもいいわけです。でも2点間の距離はこういう座標では前の関係式とは異なるもので与えられます。

緯度は赤道から測りますが,ここでは北極から計りましょう。それをθとしましょう。経度をφで表しましょう。座標が(θ,φ)の点と(θ+dθ,φ+dφ)の点の,球面上の距離の自乗は

ds2=r2(dθ2+sin2θ dφ2

となります。dθ,dφは小さい量だとしています。ここで r は球面の半径。

何が平面との一番の違いでしょうか?平面では(トーラスでも)

ds2=dx2+dy2

ですね。これを

ds2=g11dxdx+g12dxdy+g21dydx+g22dydy

と書きまして,係数gなんとかをみると

g11=1,g22=1,g12=g21=0

ですね。同じように球面上では

g11=r2,g22=r2sin2θ,g12=g21=0

となって,g は定数係数ではありません。これは確かに大きな一つの違いでしょう。

(なお,g は「計量」と呼ばれたりします。)

でも,実は,平面上でも「極座標」(R,φ)を使えば,

ds2=dR2+R22

g11=1,g22=R2,g12=g21=0

となって,g は定数係数ではありません。

はしょって結論を申しますと,平面と球面の違いは,g の中に情報としては入っていますが,g そのものを見ても違いは明らかではない,ということです。すなわち,g からつくる(計算する)ことのできる,「曲率」というものが,平面と球面では異なります。曲率のちゃんとした定義は省きますが,要するに「本質的な曲がり具合」です。(トーラスは曲がっているように見えますが,曲率は0で,平面と同じです。)

では,このへんで2次元の世界から離れましょう。

時空

曲がっている,曲がっていない,で思い出すのは,アインシュタインの一般相対性理論です。(きいたことありますよね?)蠅は普通空間の一点にじっとしてませんね?ある時刻に空間のある位置にいるわけです。時間をもう一つの座標とすることは,かなり自然なことですね。

重要な飛躍は,時間と空間をまとめて「時空」としてとらえることです。いまのところ,時空は4次元ということになります。そして,時空内での2点間の「距離」の自乗を考えること。平らな時空では

ds2=-c2dt2+dx2+dy2+dz2

とします。cは光速度。

3次元では,回転しても2点間の距離は変わりませんね。4次元でこの「距離」が不変になるような,拡張された「回転」はローレンツ変換を含みます。そう,特殊相対性理論でおなじみのやつです。(きいたことあるかな。)今日は詳しくできませんが,時間も含めた「回転」に対する,この「距離」の不変性=光速度一定ということです。

一般には

ds2=g00dt2+g11dx2+・・・

の形となるでしょう。そして時空の曲率は0でなく,「曲がっている」,あるいは「歪んでいる」。

時空が曲がっていることと重力が働いていることを同一視します。重力をうけて運動している物体は,実は時空の曲がりに沿って運動してるんだと。ただ,感覚的な理解はあまりしすぎると危険かも。通常一番効いているのは,g00(時間時間成分)の効果なので。時間方向の曲がりってよくわからないでしょ?(但し,光の運動では空間の曲がりもたいてい同じくらい効きます。)

曲率を決定する,すなわちg についての情報を提供するのがアインシュタイン方程式です。これは曲率と物質の量(密度・圧力など)を結びつけています。

アインシュタイン方程式
Rij-1/2 R gij=(8πG/c4) Tij

球対称な,アインシュタイン方程式の解として,シュワルツシルト解が知られています。

ds2=-c2(1-rs/r)dt2+dr2/(1-rs/r)+r2(dθ2+sin2θ dφ2

ここでrs=2GM/c2,Mは中心付近の全質量。G はニュートンの重力定数。

これは球対称な物体の外側の時空を表します。われわれの普通の尺度基準では,cはばかでかいので,g00の平らなときからのずれだけが効いてきます。これはちょうどニュートンの重力ポテンシャル

V=-GM/r

に対応しています。つまり,日常の世界では,g00が重力(ポテンシャル)に対応してるともいえます。

アインシュタインは,時空(3次元の空間に時間を加えた4次元)の「曲がり具合」が重力をあらわしていることをしめしたわけです(1910年代中頃)。これが「一般相対性理論」とよばれているものです。

カルツァ-クライン理論

5次元時空を考えてみます。

ds2=g00dt2+g11dx2+・・・+g05dtdu+・・・+g55du2

ラベル4は,間違いやすいのですっとばしました。

1920年代,カルツァとクラインは,一般相対性理論をつかって,電磁気力を5 次元によって説明できるのではないかと考えました。つまり,重力と電磁気力の「統一理論」です。彼らの理論,カルツァ-クライン理論について説明しましょう。

まず,5次元世界の影響が通常のエネルギーや距離では観測できない理由を説明するために,5次元が原子よりもはるかに小さな空間に丸め込まれていると考えてみます。つまりg55を小さくしとく。そして第5の座標uをまるめます。円周(S1)にするわけです。するとそれより小さいものでないと余分な次元の方向に動けないわけですね。

5次元目の大きさは,半径が10-33cmときわめて小さいため,人間が日常の空間において見ることはできません。この極小の観測単位は「プランク長さ」と呼ばれます。(重力もこのレベルにおいては自然界の他の力と同程度の大きさになるとされています。)この単位は,重力の含む唯一の基本的単位です。

プランク長さ: lpl=G1/2〜10-33cm

プランク質量: Mpl=G-1/2〜1019GeV/c2

ただし,ここで c=1,プランク定数=2πとなるような単位を選んだとします。以後,このような単位系を用います。

陽子の質量エネルギーはだいたい1GeVです。「弱い力」が強くなるエネルギースケールは約1000GeVですから,これにくらべてもプランク質量エネルギーはきわめて巨大です。自然界にどうしてこのような大きな桁の違いを持つ量が存在するのでしょう?統一理論を考えるときの,一番の問題です。

カルツァ-クライン理論では,通常の空間上における任意の点には,実際には5次元上の円周がくっついている,ということになります。このため,5次元目の方向に運動量を持った(素)粒子は,通常の空間上では静止しているように見えても,実際には円周上を回転していることになります。

粒子は,われわれの空間において静止していても,5次元で見ると運動していることができます。このとき,この粒子は大きな質量を持っているように見えます。これは,特殊相対性理論が示すように,質量がエネルギーと等価である,という関係式から導かれます。

E2=p12c2+p22c2+p32c2+p52c2+m2c4=p12c2+p22c2+p32c2+M2c4
ここで M2c4=p52c2+m2c4

量子力学では,粒子は波の振る舞いもします。円周上の波はとびとびの波長しかとれません。これは円周上,つまり5次元方向の運動量がとびとびの値しかとれないことに対応してきます。粒子本来の質量が0の場合,4次元時空で観測される粒子の質量は,5次元目の半径の逆数に比例した量の整数倍しかとれません。ゼロでない整数に対応した粒子の状態をカルツァ-クライン(励起)状態(あるいはカルツァ-クラインモード)と呼びます。すなわち,5次元で1つの粒子を考えると,4次元時空では無限個の粒子,しかも一つを除いて非常に大きな質量を持ったもの,として観測されるというわけです。

p5=n/b (bは5次元目の半径,nは整数)

また,一般に電荷と呼ばれる状態は,この余分な次元での運動として説明されます。たとえば,「運動量保存の法則」を5次元に応用すると,電荷におけるエネルギー保存の法則が得られます。つまり,逆方向の回転は反対符号の電荷に対応します。カルツァ-クライン励起状態の電荷の絶対値は質量にほぼ比例します。

では,電磁気学の電場,磁場は含まれているでしょうか?それは,

g05,g15,g25,g35

が電磁場のポテンシャルのように働くことで説明されます。5次元の重力は,4次元では重力と電磁気力にわかれる,ということになります。

カルツァとクラインの理論は多くのひとの興味を呼び起こしましたが,だんだんと忘れ去られていきました。そのひとつの理由は,上に述べたように,電荷の大きさと質量はどちらも5次元目の運動と関係しているため,電荷を持った粒子は非常に大きな質量をもたなくてはいけないことです。現実の粒子のモデルとしては,非常に困難です。もう一つの理由は,当時は発見されていなかった粒子間の「弱い力」と「強い力」がそののち研究されていったからです。「弱い力」とは,クォークの種類を変える力。一方,「強い力」とは,クォークの「色」(3種類ある,電荷に対応する属性。)を変換する力のことを指します。(クォークは,陽子や中間子などの素粒子を構成するもっとも基本的な粒子のことです。)

また,1920年代から,量子論が発展し,一方実験などでいろいろな発見もあり,それらも量子論の応用で理解されてきて,カルツァ-クライン理論は次第に忘れられていきました。

1960年代de Wittはカルツァ-クライン理論の拡張版として,より多くの余分な次元を含むモデルを考察しました。余分な次元がたくさんあるときは,その空間の形はトーラスや球に限らず,多くの種類が可能です。(余分な次元の空間を「内部空間」と呼ぶことがあります。)その違いによって,電磁気よりももっと高い対称性(非可換ゲージ対称性)をもつ力,例えば「強い力」のような,を導き出すことも可能であることを彼は示しました。ですから,重力と電磁気力以外の力の統一も可能な枠組みを与えたわけです。しかし,この当時,物理の業界では,時空が4次元以上,すなわち高次元である必然性も見あたらず,また,もととなる重力の量子論には困難がありますので,大きな話題とはなり得ませんでした。

力の統一理論というものには大きな魅力があります。電気力と磁気力も昔は異なるものと思われていた時期があったわけです。もっと以前では,地上の重力と天体の法則の関係性もわかっていなかったわけです。限られた法則からいろいろなことが説明できる理論。そんな理論があれば,それはきっと「美しい」ものにちがいない,という信念が理論屋の中にあります。

超対称性と超重力

1970年代超対称性が考え出されました。これはボゾンとフェルミオンの間の対称性です。たとえば光子はボゾン,電子はフェルミオンです。力を媒介する粒子はボゾン,物質の基本要素はフェルミオンであるといって良いでしょう。超対称性を考えるということは,光子にはフォティーノというフェルミオンの,電子にはセレクトロンというボゾンの,それぞれパートナーを与えることです。超対称性を持つ場の理論では,量子論的な性質が非常に良くなる(仮想粒子のループがうち消しあう。)という利点があります。(ただし,日常の世界では,超対称性は破れています。)

ちょうどこのころには標準理論,すなわち電磁気力,弱い力,強い力を記述する素粒子論における場の理論の枠組みが明らかになってきています。(力はゲージ対称性というものと結びついています。)重力は,素粒子の振る舞いを考える際には非常に弱いので,とりあえず考慮しなくてすみます。また,重力の量子論の正しい枠組みはよくわかっていません。

1970年代後半,重力に超対称性を適用した超重力理論が現れます。(重力子(重力を媒介する量子)のパートナーはグラヴィティーノとよばれています。)重力の量子論的振る舞いは,これによっても完全には解決しませんが,かなり改善されました。もっとも簡潔な超重力理論は11次元時空において定式化されることがわかりました。(重力子とグラヴィティーノを含み超対称性をつくるために必要な自由度は次元に依存するからです。)

超重力理論は重力相互作用を含んだ統一理論を考える際に基本となるものと考えられます。

このことを受けて,1980年代はじめまでにカルツァ-クライン理論が復活します。標準理論を含む全部で4種の力をまとめて説明しようとすると,カルツァ-クライン理論にはさらに多くの余分な次元が必要になります。そうすることで多くの力が説明できるからです。研究の結果,統一理論には最低限11次元が要ることがわかりました!これは超重力理論の次元と一致します!

しかししばらくして,クォークやレプトン(電子の仲間)について考えると,奇数次元ではうまくいかないことがわかりました。現実の粒子とあわないのです。(左巻きと右巻きの非対称性がうまくつくれないためです。)

超弦理論

1984年に超弦理論が統一理論の候補として名乗りを上げました。(ひもの理論自体は以前から強い力のモデルとして研究されていました。)この「超」も超対称性を意味しています。超弦理論は,重力相互作用を必然的に含むので(閉じたひもの基本的モードが重力子に対応),統一理論を考える際に基本となるものと考えられます。量子論的に非常によい性質を持っているため,重力の量子論としても有力です。

超弦理論では,素粒子からなる多様な物質世界は,基本的な「ひも」(一般には,開いたひもと閉じたひもがある)が異なる振動モードによって4次元時空において具現化したものであると考えます。くわしくは述べられませんが,超弦理論を量子論的に考えると,時空の次元は10でないといけないことがわかっています。(ローレンツ対称性が量子論的効果で破れてしまう。)

超弦理論では豊富なゲージ対称性がでてきます。これらの対称性は標準理論の力の種類を説明するのは十分(すぎるくらい)です。(力の統一という観点では,新たな力を導く,「本来の」カルツァ-クラインの機構は必要ない,ということでしょう。)

するともっぱら余分な次元をどうする?という問題になります。この10次元の世界では,4次元以上の6つの次元は,半径がだいたいプランク長さの円筒状の空間の中に丸め込まれている(これを時空のコンパクト化という)とすれば都合がいいですね。

超弦理論の場合,カルツァ-クライン理論には無かった新しい効果が現れます。それは,ひもが余分な空間に「巻き付く」ことです。巻き付き方によって,異なる粒子を表すことができます。この効果によって,対称性が増えたりもします。

M2=n2/b2+α'n'2b2+・・・
ここでα'は超弦理論固有の(ひもの張力を表す)定数。また,n,n'は整数。

しかし超弦理論では,コンパクト化する以前でも,(限られてはいますが)いくつかの種類があります。コンパクト化の仕方まで考えると,いろいろな可能性がありすぎて,これは「統一理論」として適切なのかという疑問が湧いてきます。統一理論はユニークなものだと思いたいですよね。

超弦理論の統一と「膜」

1990年代,超弦理論における双対性が明らかになってきました。ここで詳しくは全然説明できません。双対変換の簡単な例は,カルツァ-クラインモードと巻き付きモードの入れ替えのような変換です。いくつかの種類の双対変換によって,異なった種類の超弦理論の間には関係があることがわかりました。このことは超弦理論の統一の可能性を示唆しています。

例えば前の式で,b と (α')1/2/b を入れ替える変換がひとつの双対変換です。

その統一された理論をM理論と呼んでいます。実はM理論について全てはまだわかっていません。それはおそらく11次元で定式化されます。(するどいひとは,奇数次元であることを心配するかも知れませんね。しかし,例えば,線分(S1/Z2)上にコンパクト化というような「変わった」ことと,「ひも」であることの特殊性(さらにひもがひもからつくられる・・・)などから,統一理論としても大丈夫そうです。)おそらく11次元超重力理論もM理論から導かれます。

それと,開いたひもと閉じたひもの双対性の研究から,「ブレーン」というものが重要であることがわかってきました(1995年)。これは(普通,2次元の)膜の高次元版です。例えば空間3次元時間1次元の拡がりをもつ「膜」が10次元時空の中にあることを想像して下さい。開いたひもの端点は「膜」の上にあります。

これを,標準模型の粒子は膜の上にある,と思って下さい。すなわち,われわれはこの「膜」の上で生きているのです!(何枚かのブレーンの重なったものから,非可換ゲージ対称性が出てくることが知られています。この対称性が標準理論そのものと関係するのか,重力とゲージ理論の関係をあらわしているのか,まだよくわかっていません。(ここは専門家からクレームが来そうだ!))

超弦理論や超重力理論から導かれるモデル(有効理論)においても,「膜」のような拡がりをもった物体が記述できることが発見されました。通常われわれのよく知っているような基本粒子は,「膜」のような「3次元の面」に束縛されているとします。重力以外の基本的な力のほとんどは,この面に沿って働きます。

しかし,重力(+いくつかの力)は高い次元を通して働きます。ブレーンに対して,「バルク」な空間に働く,とも言います。重力が変になってしまわないためには,バルクな空間はコンパクト化などの「処理」が必要かも知れません。

大きな余分の次元

こういう「膜」の考え方では,重力だけは,9次元(あるいは10次元)の空間を自由に伝わりますから,やはり余分な次元は小さくなくてはいけませんが,重力に関する限り,余分な次元は以前の考えほど小さくなっている必要はありません。((ほとんどの)クォークやレプトンのカルツァ-クライン励起モードはないので。)

このLarge Extra Dimensions (LED)の可能性は,最初は1990年にAntoniadisによって提唱されました。彼は超弦理論に関する問題の解決のため,これを考えました。

場の理論におけるLEDの可能性は,超弦理論の「ブレーン」,「膜」の考え方に刺激を受けて,ここ数年活発に議論されています。

Dienesらは,場の理論において,電弱力と強い力に対してカルツァ-クライン状態の効果が実際に作用したらどうなるだろうかと考えました。彼らは計算の上,普通の統一場の理論におけるエネルギースケール1016GeV(1GeVはだいたい陽子の質量エネルギー)以下でも力の統一は可能だということを示しました。従来,そのような低エネルギー下での統一場の実現は不可能とされてきました。その理由の1つには,たとえば陽子の崩壊現象があげられます。統一理論では,(クォークとレプトンが統一されるため)陽子の崩壊が予想されますが,これまで実際に観測されたことはありません。統一理論が1016GeV以下でも実現可能なら,陽子崩壊はもっと頻繁に観測されてもおかしくないことになります。しかし,特殊な5次元時空を考えれば,陽子崩壊を引き起す要因となる波動関数の重なりの多くが禁止されるため,結局崩壊そのものが起こらなくなることが彼らによって示されました。

Arkani-Hamedらは,新しい「膜」の考え方では,重力が他の力と性質が異なること,つまり(通常のエネルギースケールでは)すごく弱い力であること,を説明できることを明らかにしました。彼らは,重力のみが影響を受ける1mm以下に丸め込まれた次元の数を2つ以上に増やせば,それが可能になることを発見しました。つまり本来高次元で重力が弱いわけではなく,内部空間の大きさが重力の弱さの原因である,ということです。

余分な次元の数がdのとき
MP2〜Mwd+2bd
b〜1030/d-17cm×(1000GeV/Mw1+2/d

非常に軽いニュートリノの質量(日本のカミオカンデグループが明らかにした。)も,LEDの考え方で説明できそうです。このとき,左巻きのニュートリノは膜上,右巻きのニュートリノはバルク空間を運動するようなモデルを考えます。(このように,重力の他にいくつかの粒子はバルク空間に広く存在してもかまいません。)

1996年には,Wittenらは,ある特定の開いた超弦理論においては,余分な1次元を線分(S1/Z2)上にコンパクト化すると,超弦理論固有のエネルギースケールを場の統一理論と同レベルにまで低減できるということを発表しました。またその後,5次元においては超弦理論のスケールを1000GeVにまで低減することも可能であることが示されました(Lykken,他)。結局,超弦理論において,1つあるいは2つの次元は統一理論のスケールを低減するために使われ,重力だけに関係する1mmかそれ以下の残りの次元は重力固有のスケールの低減に使われるというわけです。これらの,また最近の研究により,超弦理論とLEDの間の関係も明らかになって来つつあります。

現在,重力の実験や,素粒子の衝突実験でこの新しい考えを検証しようとする努力が進められています。

高次元理論の検証

高エネルギー実験

量子力学の不確定性原理によれば,調べたい長さのスケールが小さくなるほど,計測自体に要するエネルギーは増大します。このため,10-33cmの物理を調べるには,プランクエネルギー,つまり1019ギガ電子ボルト(GeV)という膨大なエネルギーが必要になります。これは,現在稼動している粒子加速器の最大出力の100兆倍です。これでは旧来のカルツァ-クライン理論を実験で検証することなど到底かないません。高次元について語ることが,これまで非現実的とされてきたのももっともです。

しかし,前に述べたように,コンパクト化の半径が10-19mであれば,現在の加速器実験でも検証可能です。 たとえば,ある(バルクに住む)粒子を高エネルギー下で観察してみると,その粒子のカルツァ-クライン状態が観測されるかも知れません。この粒子の質量は,内部空間の半径によって決定されます。たとえば,半径が10-19mであれば,通常の質量を持つ粒子のほかに,約1000GeVくらい大きい質量のカルツァ-クライン(第一)励起状態が存在することになります。これらは,次世代の粒子加速器によって生成可能かもしれません。

前に述べたように,標準理論の粒子は膜上にのみ存在し,カルツァ-クライン状態をもたない可能性が大きいです。しかしこのときでも,実験で検証可能です。それは重力子(重力を媒介する量子)は励起状態をもつからです。電子-陽電子,あるいは陽子-反陽子の衝突実験を考えましょう。このとき,通常の光子と,重力子のカルツァ-クライン状態が生成される過程が可能です。このとき重力子は通常の観測装置では見つかりませんが,光子のエネルギーなどを測定すれば,エネルギー保存則などにより,重力子のカルツァ-クライン状態の生成が確かめられます。また,電子-陽電子の衝突実験で,ミュー粒子反ミュー粒子が生成される過程では,中間状態として重力子のカルツァ-クライン状態を経る過程が考えられます。したがってこの場合も反応率等の計算と比べることによって,励起状態の存在が調べられます。

実験で超弦理論の効果が見えてくるかも知れません。この場合,特有なひもの振動モード,内部空間への巻き付きモードなどの効果により,カルツァ-クライン状態の効果との違いも検証できます。

低エネルギー

空間の次元が3でなくなると,重力は逆二乗法則(重力の大きさは距離の2乗に反比例する)にしたがわなくなります。このことは哲学者として高名なカントによって示されたと言われています。中心に質量をおいた場合,力線(磁力線のようなものを思い浮かべよう)は四方八方に広がります。力線の密度が力の大きさとなります。3次元空間では力線の密度は距離の2乗に反比例しますが,例えば空間が4次元だと,距離の3乗に反比例することになります。

(4+d)次元の場合
r>>bのとき
V〜-GM/r
r<<bのとき
V〜-(M/(Mwd+2bd))/rd+1

Arkani-Hamedらの主張が正しいとすると,0.1mm以下のスケールでは,重力が従来の逆二乗法則から導き出される数値の数十万倍も強くなるはずだとされています。(この場合でも,中性原子間のVan der Waals力が大きいため,実験による検証は簡単ではないということです。)超重力の効果(グラヴィティーノの効果)で,斥力(反発する力)が生じる可能性さえあるかもしれません。

現在,この仮説を検証するため,アメリカをはじめ,世界で精密な実験が進められています。

天体物理,宇宙物理

超新星が重力子のきわめて多数のカルツァ-クライン状態を放出すると,観測とあわなくなる可能性があります。また,宇宙論では,宇宙初期に多数のカルツァ-クライン状態の放出により,温度が下がりすぎてしまう危険性があります。このように,現在,天体物理,宇宙物理で説明できていることが食い違ってしまうことがあり得ます。

Arkani-Hamedらのモデルでは,余分な次元の数が2以上ならば,天体物理学理論,宇宙論の制約に引っかからないことがわかります。

高次元の星の構造

やっと自分たちの(山口大・菅氏との共同)研究の話です。

わたしたちは特別な場合でありますが,高い次元の中での星の構造を研究しています。現在は簡単な「おもちゃ」のモデルで検討していますが,そこでは,余分な次元が(「古い」カルツァ-クラインの考えと「新しい」考えの)ちょうど中間くらいの大きさでは,余分な次元の大きさによって星の構造が著しく変わることを見つけました。

歪んだコンパクト化

RandallとSundrumは昨年,少し変わった「膜」のシナリオを考えました。正と負の張力を持つ2枚の膜を考え,それに垂直な方向は円周状にコンパクト化されているとします。われわれはそのうち負の張力を持つ膜の上に住んでいるとします。これは実はWittenなども用いた線分(S1/Z2)上のコンパクト化と等価です。少し変わっているという点は,バルクの空間に負のエネルギーが満ちていると仮定することです(負の宇宙項)。こうすると,バルク空間の歪みのため,2枚の膜のスケールは異なるようにできます。反対側の膜上での物理はプランクスケールの大きさであるとしたときでも,スケールの違いにより,われわれの膜の上では標準模型のスケールでの物理が成り立ちます!つまり,この考えでは,バルク空間の歪みが重力と他の力の物理との違いを説明するというわけです。

例えば,こんな計量です。
ds2=e-2K|u|(-c2dt2+dx2+dy2+dz2)+b2du2

そののち,RandallとSundrumは一枚のブレーンでも,バルク空間の歪みによる重力ポテンシャルの「谷」のせいで,重力自身が膜上で自由に働くことができることを示しました。(これが正しい重力になっているかは,現在も議論されています。)この場合,コンパクト化は必要ありません!(このような試みは,赤間,Rubakovなどによって1980年代初めに考えられたことがあります。)

これらの可能性についても,実験で検証可能なことがらについていろいろと調べられています。

ブラックホール,宇宙論

余分な次元の大きさは,何によって決定されているのでしょう。これは残された大きな問題です。宇宙のどこでも同じ大きさなのでしょうか?

ブラックホールの近くでは,時空は大きく歪み,曲がっています。そのようなところでは余分な次元の大きさも変わっているかも知れません。また,膜と膜をつなぐようなブラックホールや星も考えることができるでしょう。

余分な次元の大きさは,時間的に変化しているかも知れません。宇宙の発展の歴史の中で,どのようにして現在の大きさに落ち着いたのでしょうか?

宇宙論では,おそらく,元素合成以降はほとんど高次元の影響は現れないでしょう。(そうしないと現在の理論すべてがくるってくる!)しかし,インフレーション(宇宙初期に起きたと思われている空間の急激な膨脹)などの初期宇宙に関しては,今までの説明も再考を余儀なくされるでしょう。

宇宙のはじまりの頃は,3次元空間と余分な内部空間の大きさは同じ程度でほとんど区別が無かったのかも知れません。その後,3次元空間は膨脹し,内部空間は収縮していったのでしょうか。超弦理論における「ひも」は,宇宙空間全体に巻き付いているのかもしれません。

計量として時間に依存するものを考えます。
ds2=-c2dt2+a2(t)(dx2+dy2+dz2)+b2(t)du2

「膜の世界」の考え方によれば,「われわれの」宇宙のはじまりは,膜の(対)生成なのかも知れませんね。別の膜上には,何が住んでいるのでしょうか?膜と膜がぶつかることってあるんでしょうか?

また,(Randall-Sundrumの最初のモデルのように)膜が2枚以上あるモデルでは,他の膜上の物質分布は,重力を通して,「ダークマター」のように振る舞うかも知れません。そうすると現在の宇宙においても,「膜の世界」が観測される,という可能性があります。

最後に

現在,理論物理学者は,「膜」の考えを中心にして,いろいろな統一理論の可能性を検討しています。新しい世紀に向けて,理論と実験(観測)がともに「新しい次元」に向けて進み出そうとしています。


New Scientist 1998年11月5日 "Five and counting..." Marcus Chown
とその訳 MSN ニュース & ジャーナル「 5次元の世界へようこそ」(翻訳・田中勇樹,編集・仲達志)
をかなり参考にしました。


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