一般書 小説
2002 島村洋子 家族善哉
次点 宮部みゆき 模倣犯 あや
光原百合 十八の夏
2003 荻原規子 西の良き魔女
小野不由美 十二国記
次点 C.Willis 航路
2004 J.Diamond 銃・病原菌・鉄 瀬尾まいこ 図書館の神様
次点 伊坂幸太郎 ラッシュライフ/重力ピエロ
浅田次郎 壬生義士伝 あや
吉本ばなな デッドエンドの思い出 あや
姫野カオルコ ツ、イ、ラ、ク かず
大崎善生 孤独か、それに等しいもの かず
2005 樋口裕一 ホンモノの思考力――口ぐせで鍛える論理の技術 西加奈子 さくら
次点 上橋菜穂子 蒼路の旅人 あや
恩田陸 ユージニア、夜のピクニック
瀬尾まいこ 優しい音楽
小原賞 2002−2005
小原賞とは: 2003年から毎年の年賀状で発表している。その前年一年間に小原一馬と彩子が見たり読んだりした映画・文学・漫画・音楽などについて、二人の評価リスト(0.5から5までの10段階評価)をもとに平均が4.5以上だったものから受賞作、次点が決められる。ただし一馬、彩子の一方のみしか読んでいなかったりした場合には次点とするようにしている。
映画 漫画 音楽  (アルバム)
2002 矢口史靖 ウォーターボーイズ Ego Wrappin' Night Food
C. Hanson ワンダー・ボーイズ Mr. Children It's a Wonderful World
Mirabassi Trio Live!
次点 R. Rodriguez スパイ・キッズ   山崎まさよし Transit Time あや
2003 X. Feng ハッピー・フューネラル Lunasa Merry sisters of fate
A. Lee 恋人たちの食卓(飲食男女)
次点 J. L..Brooks 恋愛小説家
  H. Hawks 紳士は金髪がお好き
2004 J. Ford 静かなる男 二ノ宮知子 のだめカンタービレ 栗コーダー・オーケストラ Tribute to あずまんが大王
次点 S.Raimi  スパイダーマン2 あずまきよひこ あずまんが大王   クレイジーケンバンド Oldies but Goddies
R.Scott マッチスティック・メン 高橋しん 最終兵器彼女 あや bump of chicken ユグドラシル かず
S.Soldini ベニスで恋して かわぐちかいじ 太陽の黙示録 あや
SABU ポストマン・ブルース 鴨居まさね Sweetデリバリー
井筒和幸 ゲロッパ 村上かつら サユリ1号 かずま
J. Sheridan イン・アメリカ あや
矢口史靖 スウィング・ガールズ あや
2005 R.Linklater ビフォア・サンセット よしながふみ フラワー・オブ・ライフ 栗コーダー・オーケストラ他 ウクレレ・フォース/ウクレレ・ジブリ
次点 S.Lee 25時 安彦良和 機動戦士ガンダム The Origin bump of chicken ジュピター かずま
2004年 講評 (by 小原一馬)

今年から、小原賞は原則、入賞作を各部門1作とするようにした。二人で選んでいる関係で、その両方がこれなら、というものが選ばれている。

一般書部門:
今年から新設。この部門だけは一馬が勝手に決定している。
受賞した「銃・病原菌・鉄」は、人類100万年の歴史において、どのように現在のようなヨーロッパ文明の優位が達成されたかを特に大陸間の性格の違いから見ていったきわめてスケールの大きい歴史書。著者のJダイアモンドは生物学者で社会科学分野の専門家ではないが、これだけ大きなスケールのストーリーにはむしろ地形、気象、動植物の分布といった基本的な生態学的情報の適切な分析が効果的なことを教えてくれる。

小説部門:
ふたりが一致して選んだのは瀬尾まいこの「図書館の神様」。「学校図書館が舞台で、読書好きで性格のできた男の子が、バレー一筋に打ち込んできて挫折を経験した新任教師に、読書の喜びを伝える」というストーリー、ってまとめるとなんか違うのかもしれないけど、うちみたいに、本好き、図書館フェチの二人には、こういうお話ってやっぱりたまらない。次作品の「天国はまだ遠く」もそうだけど、おだやかな絶望のちょっと上のところを、日常のほのぼのとした喜びでふわっと舞い上がっていく、そんなストーリーと文体に心をゆさぶられた。

次点のうち、年賀状版には入れ忘れたものの、去年ふたりが夢中になっていた作家が伊坂幸太郎で急遽WEB版には入れておいた。一馬は「ラッシュライフ」あやは「重力ピエロ」がお奨め。「ラッシュライフ」は、はじめまったくつながりのなさそうに見える4つの物語がアクロバティックに一箇所に集まっていく、その話運びが最大の魅力。そういう意味では「アヒルと鴨のコインロッカー」と同系列の作品といえるだろう。あとは全ての伊坂作品に出てくる人を食ったキャラの突飛な言動が楽しい。
「ツ、イ、ラ、ク」は、去年僕が読んだ本のベストで、姫野作品の中でも個人的には最高傑作。岩井俊二の「リリーシュシュ」を思わせるような圧倒的リアリティで展開される小・中学校期の生活描写の中に配される、姫野的な孤高を愛する女性。当然にも悲劇的な展開をつっぱしって行きそうなのだが、これまでの姫野作品を知るものにとっては意外にも暖かな視線が脇役ひとりひとりに向けられる。
「孤独か、それに等しいもの」 無償の愛という通俗的になりがちなテーマを、感傷に流されないぎりぎりのところで頑張っているように感じた。小説としても「九月の四分の一」からさらに腕を上げ、洗練された印象がある。村上春樹の文体を露骨に模写したスタイルに好き嫌いがでるかもしれないが、きっといつかオリジナルなものを作り上げてくれる、と先物買いするつもりでお奨めしたい。
残りはあやちゃんご推薦なので、彼女の解説をお待ちあれ。

漫画部門:
こちらも今年から新設。「のだめカンタービレ」はまだ完結していないのに、待ちきれずに今回受賞。クラシックの若い音楽家たちを描いたストーリーなのだが、よくある音楽漫画が音楽を単なる物語の道具にしてしまい、実際に描いているのは「天才の悲劇」とか「宿命の対決」などでしかないのに対し、この作品では、彼らの演奏する音楽が聴こえてくるようで、音楽を真剣に志すものたちの思いがとてもリアルに描かれているように感じた。この作品では、主人公たちの音楽における驚異的な才能も、多くの漫画でしばしばインフレしがちな単なるレッテルではなく、この世界で活躍するために上げられた高い高いハードルを越えた人々の、常識的な能力として、自然に描かれている。すでに完結している同じ作者の「グリーン」もとてもよく描けているのでこちらもお奨め。
次点の「あずまんが大王」は、高校のなかよし女の子グループの日常を描いた作品で、ひとりひとりの性格設定の上手さもあるが、それ以上に「キャラ」のからみが非常に楽しく描かれている。共学という設定にも関わらず、ひとりの男性教師を除いて、ほとんどまったく他に男性がでてこず、恋愛的な要素もゼロに等しいのがとても新鮮。
「Sweetデリバリー」は、働く女性のあこがれ、生きがい、悩みをとてもリアルに描いていて、大変好感が持てた。個人的には、逢坂みえこの後継者的な扱い。
「サユリ1号」は、男の子をもてあそぶのを生きがいにしている女の子と、彼女のターゲットになってしまった、ちょっと情けないいわゆるマニュアル人間みたいな男の子、そして彼の幼馴染でちょっと彼のことが気になっている自立した女の子の三人が、互いに傷つきながら成長していく、そんなストーリー。舞台が京都の大学なのも、僕らには高ポイントで、最近読んだ森見の「太陽の塔」と、その意味で同ジャンル。


映画部門:
受賞した「静かなる男」はジョン・フォードの古典的名作で、年配の映画ファンの方には何を今さらと思われるかもしれない。(それは昨年の「紳士は金髪がお好き」もそうだろう。)
フォードの作品はこれまでにもいくつか見ていたが大体どれも感傷的でどうにもこうにも好きになれなかった。この作品も、監督自身の心の故郷を大げさに美化して描いているという意味では「感傷的」ともいえるかもしれない。またお話もいかにも型どおりで誰もが納得する大団円に向かっていく。
それなのに、型どおりに見えた展開がはずすところははずしてくるので、不思議に斬新で展開が読めず、やたらと盛り上がるのだ。しかもそうした定型がいわゆるわかりやすい善玉・悪玉という「偏見」にのっとるのではなく、たとえばカトリックとプロテスタントの闘争が続くこのアイルランドにおいて、神父と牧師が仲良く双方のために協力しあうというような、よく考えるとありえなさそうなことが、ほほえましく描かれている。
特筆すべきは、ヒロインのモーリーン・オハラの表情の作り方で、最近のディズニー映画のヒロインの実写版といえるような感情表現に驚かされた。また彼女のちょっと男まさりだけど、実はけなげでかわいい、というようなキャラクター設定も、決して男尊女卑的な印象をあたえず、そのまま現代の「女性の活躍するお話」として受け入れられそうだ。脇役一人一人にも暖かい視線が送られ、欠点も最終的には許せてしまうような「好人物」として描かれる。
とにかく気持ちの良い作品でぜひ若い人にも見てもらいたい。
次点についてはひとことずつ。

「スパイダーマン2」は今更紹介の必要も無いだろう。第一作にも増して流麗なカメラワーク、ちゃちには見えなくなった敵役など映像面も大きいが、前作ラストにおいて表明される、これまでの定型的なハッピーエンドを覆すあっと驚くような「ヒーロー」としての決意が今作で主人公をどのようにひっぱっていくかが一番の見所。こどもの頃読んだ原作コミックにおける「リアルに悩むヒーロー像」がとても上手に描かれている。
「マッチスティックメン」は、ペーパームーン的な雰囲気の話で、「父娘」物語ファンのつぼをつかれた。苦い結末もまたよし。
「ベニスで恋して」は、お母さんがツアーのトイレ休憩中に観光バスにおいてけぼりを食らわせられた結果、そのまま大冒険に突入していくというそんな話。2分に1回はちょろっとつっこみどころが用意されて、くすっと笑える、そういうのが続きながら、ヒロインとそのまわりの人物がどんどん好きになっていく。そして共感をひきこみながら、最後にはみんながハッピーなエンディング、と地味に楽しい映画。映画館で他の観客の笑いに一体化しながら楽しむ、という、そういう意味でちょっと昔風な映画ですが、次はどうなるのだろう、という展開はとても個性的で新しもの好きにもきっとうけると思う。イタリア映画って、舞台くさい濃ゆい演出のものが多くて、僕はどちらかというと苦手にしていたんですが、これはよかった。
「ポストマン・ブルース」この頃うちではしばらくSABU&堤真一ブームが続いていて、これはそのなかで見たベスト。なにか新しいタイプの映画をみたい、という人にはお奨め。本作でSABUはハッピーエンディングの概念をひっくり返している。
「ゲロッパ」小ネタの連続、という意味では「ベニスで恋して」と一緒なのだが、あちらが雰囲気的に笑わせるのに対し、こちらは俳優ひとりひとりの直球ギャグが売り。僕は西田敏行が大好きで「釣りバカ日誌」などもテレビでやっていると必ず見てしまうのだが、本作品ではべたな、やくざの親分子分の「師弟愛」と、血だけつながった父娘の「家族愛」とを、同時に上手に演じている。脇役陣もすきのない配置で、娘役の常盤貴子も十分及第点。

音楽部門:
昨年ふたりでもっともヘビーローテで聴いたものを思い出すと、この「Tribute to あずまんが大王」とクレージー・ケン・バンドのベストだった。後、実際に聴いてたのは2005年になってからが多かったんだけど、2006年のお正月を待つにはちょっとタイミングが悪そうなので、bump of chicken のユグドラシルも加えておいた。
今年「あずまんが」は漫画でも小原賞次点に入っているが、アニメもすばらしくて、あの四コマ漫画が動くというだけで新鮮だったし、ストーリーとしての組み合わせ方も楽しかったが、もうひとつその音楽がまた良かった。我が家のオールタイムベスト「はじきよ」の音楽に近い、リコーダーを中心としたアコースティックな響きがとても心地よい。この「Tribute to あずまんが大王」はそのインスト系の音楽に歌詞をつけて歌っているのだが、はじめて聴いたときには「なんという暴挙」と思ったにも関わらず、何度か聴くうちに虜になってしまった。歌詞がまたよいのだ。
ケンさんの音楽もやっぱり歌詞で売っているところが大きいと思うが、こうしてアルバムをちゃんと聴いて見ると、バンドの演奏もめちゃめちゃ上手で、売れるべくして売れてる感じがする。って言うか、これで売れなきゃ駄目だろうって感じ。ちなみに我が家ではしばらく彼らのCMソング、「プチッ、チューーー、カフェ・フレッソ、 プチッチューカフェフレーーッソ」が大流行だった。
bumpは、天体観測をラジオではじめて聴いたとき、あまりにしびれて体が凍った。それから同じ曲ばかり何度繰り返して聴いたかしれないくらい。
僕がいわゆるハードロック系の音楽をまともに聴くようになったのって、ミスチルのDiscoveryがはじめてで、もう29才だったから、すごく遅い。
でもミスチルって、バンドとしては今ひとつで、コンサートとかビデオで見ても、いいのは桜井さんだけで他の人はぱっとしない。純粋に桜井さんだけの音楽性でやっているんじゃないかと思われた。
いわゆるバンドとしていいなあと思ったのは、この「天体観測」が最初。入りのギターのハウリングがかっこいいし、そこから刻みはじめるドラムと、アクセントをきちんといれるベースが最高だった。ほしいところにきちんと音がはまってくる感じにめちゃめちゃしびれた。
bumpは歌詞がいいって人が多いけど、僕にとっては何よりバンドとしての一体感が最高。それこそ、ジャズのインタープレイに通じるものがある。ボーカル、ギター、ベース、ドラムの超基本的なバンド構成で、ここまでの音を鳴らすって本当にすごい。若さのパワーというのも感じたけれど、音楽としても完全だった。これしかないって感じ。
しばらくして同名のドラマができちゃうくらいに売れ続けbumpはこれで超メジャーに躍り出たようだが、それ以降の曲は「天体観測」のあの感動を期待していた僕にはパッとしなかった。ハルジオンとかも二番煎じという印象で、"Jupiter"はちょっと聴いて駄目だと思った。
しばらくそれでbumpのことは忘れていたのだが、昨年末ごろから街中に流れ出していた「車輪の唄」に「結構好きかも」と反応。そのときはじめて新しいアルバムが出てることに気づき、それでbumpに「天体観測」とは違った新しい魅力を発見した。ユグドラシルの曲はすべて大好きだ。こんなふうにベスト版ではないようなアルバムを一枚まるごと好きになるって国内ではミスチルと小沢健二くらいだった。そういう意味でこれはとても特別なアルバムになりそうだ。

美術展 演奏会
2005 東京国立博物館 北斎展 A.コブリン ブラームス、ショパン他
次点 埼玉県立近代美術館 ゲント美術館名品展 諏訪内晶子/ヨーロッパ室内管弦楽団 JSバッハ 他
出光美術館 新発見 長谷川等伯の美

2005年 講評 (by 小原一馬)

一般書部門 
 いわゆる学術書で感動した本というのは今年は残念ながらなかったのだが、新書なら樋口裕一がイチ押し。彼は「頭がいいい人、悪い人の話し方」で今年ブレイクしたのだが、大学生・大学院生にはぜひこちらを薦めたい。どのようにモノを考え、発言したらいいか、論理的かつわかりやすく説明している。よい文章の書き方とよい発言の仕方が同じであることに気付かされた。文章を書く上では、「やさしい文章術」もお薦め。こういう本、こういう教育をこれまでずっと待ち望んでいた。彼の本がベストセラーになるのも、僕と同じような思いだった人が意外に多かったことを教えてくれ、勇気づけられる。

小説部門
 西加奈子という新人を大プッシュ。「さくら」では、誰しもが打ちのめされそうな絶望的状況の中のかすかな希望を見事に描いている。輝かしい幸福な世界の造形があまりに見事なために、その後にやってくる不幸がイタいほど。しかし落としただけで終わるのではなく、たんたんとした日常の中に救いを見出す力は離れ業としか言うことができない。また個人的には、いきのよい関西弁の会話も魅力の一つ。まだ大きな文学賞はとっていないが、瀬尾まいこと並ぶ注目の人。
 なお、この「さくら」にインスパイアされて、久しぶりに曲を作ってみた。こちらから

 恩田陸、瀬尾まいこはコンスタントに素晴らしい作品を送り出している。
恩田陸は書き出しの美しさ、展開のどきどきは素晴らしいのに、ラストは「あれ」と思うことが多く、無理に謎解きのミステリー仕立てに持っていかなくてもいいのでは、と思うことが多いのだが、「夜のピクニック」はミステリー色を薄くしたおだやかなオチで締めているのがよかった。高校生がみんなで24時間ひたすら歩く、という設定を最大限生かし、読んでいるだけで自分も一緒にそれに参加しているような、「あの頃」に戻るリアル感があった。いっぽう「ユージニア」は、謎を深めるだけ深めていって深い森に放り出される感じが素晴らしい。恩田は他にエッセー集や紀行文など、当たり年だった。
 瀬尾まいこはデビュー作から、どれを読んでもほのかに優しく悲しい瀬尾ワールドが展開していながら、しかもそれぞれに全く違ったお話ができあがっていて、全くはずれなし。今年も素晴らしい作品を期待したい。

以下 つづく。